派閥は本当に悪いのか

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 政治資金のキックバック問題が自民党を大きく揺さぶっている。不記載だった議員のうち39人への処分も決まった。収支報告書に記載していなかったのだから裏金と言われても仕方ないだろう。ただパーティー券を売ってノルマを超えた分を還流してもらうなど、何ともセコイ手法である。70年代の「三角大福」(三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫)が総理の座を争った時代は、派閥を率いるリーダーがメンバーのお金の面倒をみていたものだ。 
 これだけ大問題になっているにも関わらず、自民党内からこの問題をどう解決するのかという声が上がってこないのも異常だ。党として機能不全に陥っているかのようだ。昔の自民党なら党内から侃々諤々の議論が巻き起こったはずだ。
 自民党という政党は、何か問題が発生すると派閥の存在がやり玉に挙げられる。今回も安倍派が批判にさらされた。岸田首相は、支持率を上げるため真っ先に自派閥の解散を宣言して見せ、安倍派や二階派もそれに続いた。だが支持率は上がらない。なぜ解散するのかを説得力を持って説明することが出来なかったからだ。どうもこの首相は破れかぶれが多すぎる。
 そもそも本当に派閥は悪いのか。私はそうは思わない。370人を超える衆参国会議員がいる自民党が一枚岩であるわけがない。その方が不気味であり、派閥が出来るのは自然なことだ。もし派閥を解消したら党の運営はどうなるのか。党務は幹事長が仕切ることになり政党助成金を独占することになる。この方が怖い。
 問題は、派閥がまともに機能していないことだ。その最大の理由は、1994年衆院の選挙制度が中選挙区制から小選挙区制に変えられたことだ。小選挙区制は、1選挙区1人の候補者になる制度であり、公認権を持つ党執行部が圧倒的な支配力を持つことになる。自民党を例に取れば、維新の会が圧倒的に強い大阪を除けば、多くの小選挙区では公認されることは、かなりの確率での当選につながる。だから公認権を持つ執行部には逆らえないのだ。
 一家(いっか)言(げん)を持っている政治家なら、執行部に唯々諾々と従ったりしないものだ。だがそういう人物は公認してもらえない。結局、何の定見も持たない政治家や二世議員ばかりが当選してくるのだ。昔の自民党には、「やっぱり“野に置けレンゲ草だったよ」といわれた政治家もいたが、強烈な個性を持っている人が多かった。定数が3から5の中選挙区制は、同一政党で激しく争った。だから否応なしに政治家としての力を付けなければならなかった。支えてくれる派閥も必要だった。自民党同士で大げんかをするわけだから、それは面白く熱狂した。投票率も今よりはるかに高かった。
 小選挙区制を導入する際、「政権交代可能な選挙制度」と言われた。実際に2009年には、民主党が政権に就いたがわずか3年で幕を閉じた。小選挙区制は政治のダイナミズムを無くす。派閥の力が生きる選挙制度に変えるべきだ。その方が政治が面白い。