岸田首相を見ていると「鈍感力」という言葉が頭をよぎる。作家で医師でもあった故渡辺淳一氏の著書に平成19(2007)年に集英社から発行された『鈍感力』というのがある。この本は単行本として発行され、その後、文庫本にもなった。私は読んでいないが、その際の概要説明には、要旨次のように書かれている。
〈シャープで、鋭敏なことが優れていると世間では思われているが、些細なことで揺るがない「鈍さ」こそ、生きていく上で最も大切な才能だ。長い人生の途中、苦しいことや辛いこと、気が落ち込むときにも崩れず立ち上がって、前へ向かって明るくすすんでいく。こうした楽天主義が自分の心を前向きにし、したたかな鈍感力を培うことになる。〉
納得する説明だ。この数カ月をとっても岸田首相にとって歓迎すべきような明るい話題など何一つない。政治資金問題は批判のオンパレードだ。規正法改正にも評価の声はない。衆院補選も敗北した。水俣病をめぐる厚労省や大臣の対応には呆れるばかりだ。そしてどの問題に対してもシャープさを感じるものはなかった。
世論調査での支持率も軒並み過去最低を記録している。7月に朝日新聞が行なった世論調査では、9月に予定されている自民党総裁選挙で再選して「続けてほしい」という答えは18%、「続けてほしくない」が74%にも上っている。産経新聞とFNNの世論調査では、岸田内閣を「支持する」は25.1%、「支持しない」は68.9%に上っている。7月23日付産経新聞は「危険水域」という見出しでこの記事を報じている。
連日、こんな情報が溢れているにもかかわらず、岸田首相に打ちひしがれたような様子は微塵も見えない。強いとしか言いようがない。ここで想起されるのは、平成18(2006)年に誕生した第一次安倍晋三内閣が支持率の低下に悩んでいる時、小泉純一郎前首相が安倍首相に激励として贈った言葉だ。それが「目先のことには鈍感になれ。鈍感力が大事だ」という言葉だった。
岸田首相が目先のことだけに鈍感なのか、もっと先のことは鋭敏なのかその当たりのことは分からないが、楽天主義に基づいて鈍感力を発揮することが政治家に必用な要素であることだけは間違いあるまい。悲愴な顔しておれば良いと言うことではない。
鈍感力のためかどうかは不明だが、JNN(TBS系列)の8月の世論調査によれば、岸田内閣の支持率が先月の調査から4.1ポイント上昇し31%になっている。不支持率は先月よりも5.1%下落し、66.4%だったそうだ。政党支持率でも自民党の支持が前月の調査から3.0%上昇し、27.1%になっている。一方、立憲民主党の支持率は2.2%下落し、5.2%になっている。
9月には自民党総裁選を控えている今、岸田首相に退く気持ちは毛頭ない。石破茂元幹事長が意欲を示している。茂木敏充幹事長や高市早苗総務相はどうするのか。共産党には出来ない党首公選の魅力を示して欲しいものだ。