少し前になるが7月29日付産経新聞の「月曜コラム」欄に、「露勝利なら西側自壊も」という記事が掲載されていた。ウクライナ生まれの国際政治学者グレンコ・アンドリー氏の寄稿である。G7(主要7ヵ国)のウクライナ支援を巡っては、アメリカでも民主党とトランプが率いる共和党では相当温度差がある。ヨーロッパの国々でもウクライナ支援について、決して一枚岩ではないようだ。日本でも鈴木宗男氏ものように、一方的にウクライナに肩入れし、米国に引きずられているだけでは駄目だという意見もある。
ソ連崩壊によって、ソ連を軸にした軍事同盟ワルシャワ条約機構も解体され、以前は東側諸国であった国やソ連の一部であった国々がNATO(北大西洋条約機構)に加盟し、NATOは大きく拡大した。このことがロシアとの間で緊張感を高めてきた。プーチンによるウクライナ侵略は、この流れの中で発生した。だから悪いのは東方に拡大したNATOであり、ゼレンスキーであるという意見すら一部にはある。
だがこんなことでロシアのウクライナ侵略を正当化出来ないことは言うまでもない。侵略から一年目の昨年2月24日の国連総会では、「ロシア連邦に対し、国際的に認められたウクライナ国境内の領土から、直ちに、完全かつ無条件にすべての軍を撤退させること」、また敵対行為を停止することを要求する決議を採択した。これには141ヵ国が賛成した。
グレンコ・アンドリー氏は、「ウクライナが敗北してロシアに占領されたら、世界はどうなるか。ルールに基づく国際秩序が崩壊し、独裁国家が暴走する。各地で戦争が起きやすくなる」と指摘する。この危険性は北朝鮮のミサイルの絶え間ない発射や中国と北朝鮮のロシアの最近の連携強化にはっきり表われている。
グレンコ氏はさらに指摘する。ロシアが勝って強いという印象を与えれば、ロシアと結びつきを強めようとする指導者も出てくる危険性があるというのだ。今、ウクライナの反撃も開始され、プーチンは窮地に立たされている。これに助け船を出すようなことを断じてしてはならない。
7月28日付産経新聞には、論説委員斎藤勉氏が「論説委員日曜に書く」という欄で「露中朝は五輪の『悪の伴走者』」というコラムで次のように書いている。
〈プーチン氏の24年間の強権統治は自らの相次ぐ侵攻によって専科を絶やさず、国民の関心を外に向け続けるのが特徴だ。〉
〈侵略のロシア側戦死者、国外への脱出者はいずれも数十万人といわれる。〉
〈プーチン氏自身が国の未来を日々、奪っている。国家資源の大半を侵略と反戦・反体制狩りに費やし、国民の間ではテロの恐怖も広がる。国内の八方塞がりの荒廃ぶりはソ連崩壊前に似てきた。〉
鋭い指摘だ。気ままな侵略行為に、正当性は微塵もない。このプーチン氏の行動を擁護すると言うのは、道徳的頽廃以外の何ものでも無い。ロシア国民のためにもロシアを勝利させてはならないのだ。