10月1日に発足した石破茂内閣だが、首相に選出される前に解散総選挙の日程を発表するという前代未聞の行動から始まった。何をそんなにあわてているのか全く理解できない。石破内閣発足への支持率を見ても、麻生内閣や岸田内閣など最初から相当低かった内閣よりは少し高い程度にすぎない。
しかも、石破首相自身が「国民に判断材料を提供するのは新首相の責任。本当のやりとりは予算委員会だ」と述べ、一問一答形式で行われる予算委を経てから衆院を解散する意向を示していた。それをテレビなどで何度も聞いてきた国民からすると、「石破さん、話が違うじゃないか」という批判の声が上がるのも当然だ。解散を急いで得になることなど何もない。
最近では、早期解散をぶち上げていた自民党幹部の中からも、「予算委員会をやっても良かったのではないか」という声も出ているというから、何をか況(いわ)んや、だ。
この解散が自民党にとって吉と出るか、凶と出るか、なかなか微妙である。
NHKの世論調査によると、岸田内閣が発足した3年前の10月には、自民党の支持率は41.2%だった。それが今年の6月には25.5%まで落ち込んだ。昨年末に安倍派や二階派の裏金問題が発覚し、今年1月には議員3人と秘書4人、派閥の職員ら3人が政治資金規正法違反容疑で立件されていた。この問題への批判の結果だった。
ここまで落ち込んだ自民党の支持率だが、9月には31.3%まで戻していた。一方、野党の立憲民主党や日本維新の会、日本共産党なども一桁の低い方の支持しか得ていないのが現状だ。立憲民主党の新代表になった野田佳彦氏は、盛んに「政権交代選挙」だと叫んでいるが、そんな空気感は微塵もない。2009年8月、第45回衆院選挙で民主党が政権奪取に成功したときには、子ども手当や高速無料化などのあれこれのマニフェストよりも、最大の国民の共感を得たのは、「政権交代」という言葉であった。
自民党政治にウンザリしていた国民にとって、「政権交代」は“魔法の言葉”だったのだ。今とはまるで空気が違ったのだ。
そう考えているときに飛び込んできたのが、裏金議員の一部を公認しないという石破総理・総裁の記者会見だった。数日前には、森山裕幹事長の意向も受けて「原則公認」という方向も示されていた。これが大きく転換されたのだ。
1つは、党則に基づく8段階中4番目の「選挙における非公認」より重い処分の「党員資格停止」処分の議員は非公認にする。これに該当するのが下村博文元文科相、西村康稔元経産相、高木毅元国対委員長の3人。2つ目は、「党の役職停止」で1年間の処分が続いている議員で萩生田光一議員ら3人は非公認。また政治資金の不記載があった約40人については、比例復活が可能な重複立候補を認めない。
旧安倍派議員らには相当厳しい処分である。旧安倍派には相当強い不満があるようだが、間違いなく自民党には吉と出るだろう。野党もありきたりな裏金批判では通用しない。