マルコ・ミフケルソン氏(エストニア国会外務委員長)他との意見交換

.

研究員 増永真悟

 10月25日、マルコ・ミフケルソン氏(エストニア国会外務委員長)、マイト・マルティンソン氏(駐日エストニア特命全権大使)、オリバー・アイト氏(駐日エストニア大使館商務官)がJFSSに来訪し、島田和久JFSS副会長(元防衛事務次官)との日・米・台を含めた世界情勢に関する意見交換を行った。
 ミフケルソン氏は冒頭、7月に開催されたJFSS主催の「第4回台湾海峡危機政策シミュレーション」に関し、「非常に興味深いシミュレーションを開催したと聞いている」と述べ、島田氏は政策シミュレーションの概要と成果を説明した。島田氏はシミュレーション後に残った課題として「日本の防衛に関しては2022年に策定された『戦略三文書』通りに進めば問題ないが、日本船籍船の中国海警船に対する防護や中国の日本に対する経済的威圧といったグレーゾーン事態への対処、約11万人の中国在留邦人の退避などの課題が残っており、日本が抱える中国との経済的問題と台湾海峡危機へのバランスの取れた対応の難しさについて今回シミュレーションを通じて再認識した」と述べた。
 島田氏の説明を聞いたミフケルソン氏は、ウクライナ戦争が北朝鮮のロシア派兵によって「グローバル化」し、東アジアを巻き込みつつある現状を指摘した。島田氏は近年、中・露の海・空軍が共同で日本列島を一周し、北朝鮮に関しても同盟関係にあるロシアの援助によってミサイル技術が向上しつつある現状を取り上げ、「台湾海峡危機もまたウクライナ戦争と同様に『世界規模の紛争』の文脈で理解されなければならない」と語った。
 ミフケルソン氏の「習近平が台湾侵攻に踏み切る引き金となる出来事は何か」という質問に島田氏は具体的に2つの可能性があると答えた。1つは「台湾による独立宣言」、もう1つは中国の「反国家分裂法」に「台湾の平和的統一が不可能になった場合は武力行使を辞さない」と明記されていることで、「習近平は台湾を巡る現在の状況が続くことを許さない」と述べた。島田氏は更に、中国が包囲と封鎖による経済的な圧力によって台湾を屈服させようとしている可能性はむしろ高まっているとした。アジア太平洋地域の安全保障に欠かせない存在であるアメリカは長年「二正面戦略」を採ってきたが、オバマ政権以降放棄している。また、米の原子力空母のアジア太平洋地域における存在は非常に重要だが、空母は今夏以降、欧州と中東に集中し、アジア太平洋地域に1隻も存在していないことが懸念材料となっている。
 最後に、同席したマルティンソン駐日エストニア大使から最近、日本への欧州諸国の艦艇の日本への寄港が相次いでいることと、日本周辺における安全保障上の現状についての質問があった。「近年、欧州諸国は海軍だけでなく陸・空軍も日本に派遣しており、自衛隊との合同演習が度々行われており、欧州諸国軍の来訪や自衛隊との合同演習は日本周辺国による現状変更の試みに対する抑止力として機能している」という島田氏の回答を聞いたミフケルソン氏からは「我々エストニア海軍の艦艇も日本に寄港させねば」という冗談が出るほどの歓談ぶりであった。
 中・露、そして北・露の連携が強まり厳しさを増す日本の安全保障環境下、ユーラシア大陸の西側で奇しくも中・露・北と対峙している民主主義国エストニアの国会外務委員長と日本の元防衛事務次官が、約8,000キロの東アジアの安全保障について熱く議論できたことは、実にとして専門的知見を有し、また今夏の政策シミュレーションで国家安全保障会議局長を務めた島田氏の意見交換は非常に有意義なものであったことをご報告する。
 
          ① 「東アジア地勢図」を使い、日本と台湾の地理的近接性と先島諸島の
            防衛状況を解説する島田副会長
 
② 一行と歓談する長野事務局長
 
③ マルティンソン大使(左)、ミフケルソン氏(中央)、アイト商務官(右)