中国は尖閣諸島周辺に数百隻の漁船と20隻ほどの“公船”を進出させて、日中両国の紛争に持ち込もうとしているようだ。8ヵ月前、ブッシュ政権時代の大統領首席補佐官のルイス・リビー氏と日米近代史の専門家のアーサー・ハーマン氏は共同で大手紙のウォール・ストリート・ジャーナルでこう予言していた。
「中国はオバマ政権の最後の一年間の緩みを狙って、尖閣諸島への短期の軍事攻撃をかける見通しが強い」。
事態は両氏の予想通りに展開しているようだが、中国人の軍事専門家も尖閣諸島を巡る領有権紛争を自国に有利にするためには、“日中対決”という状況が必要なのだと見ている。日本側はすぐに引き下がって外交的な解決を求めるようになる。中国も日本が戦争に突っ込んでくるはずがないと踏んでいるから交渉に持ち込める公算が大だ。その時、米国が本気で阻止に動いてくれれば別だ。が、オバマ政権では期待できない。
安倍首相は国連総会出席の機会を捉えて、ヒラリー・クリントン大統領候補と敢えて会談した。現職の首相が大統領選の一方の候補者と面会することは、異様なことである。安倍首相は尖閣の状況説明と日本への今後のバック・アップを目に見える形で訴えたかったのだろう。トランプ氏が大統領になった時に「しっぺ返しを食う」との見方があるが、トランプ氏も大統領職に就けば、日米同盟の重要さを認識するだろう。
中国が本気で南シナ海の岩礁を埋め、軍事基地を造り、東シナ海にも公然と手を出す中で、沖縄県の翁長雄志知事は、未だに辺野古移設反対を貫いている。9月16日福岡高裁那覇支部は、翁長知事が起こした「埋め立て承認取り消し処分」は違法との判決を下した。判決の主旨は ①普天間の被害(過密)を除去するには辺野古沿岸部の埋め立てを行うしかない ②国防と外交は国の本来的任務で、国の判断は不合理でない限り尊重されるべき――の2点に尽きる。それでも翁長氏は上告して最高裁の判断を求めた。この姿勢は事の理非を追求するというより、あくまで「非」にこじつけたいように見える。
判決を伝える読売新聞と産経新聞の見出し(9月17日付)は、共に「辺野古訴訟、国が勝訴」、副見出しも読売が「埋め立て承認取り消し『違法』」、産経が「翁長知事の対応『違法』」というものである。判決の内容は誰が見てもこの通りと思うのだが、朝日新聞は2面で「完敗判決 沖縄『あぜん』」と住民の意思はどうするのだと言わんばかりの解説記事を載せている。知事選で翁長氏が勝ったとは言え僅差の勝利である。つまり半分の人達は「辺野古」への移転しか解決策はないと見ている。判決でも「辺野古しかない」と断じている。
朝日の取り上げ方に「あぜん」としていたら、16日の判決の夜のNHK「時論公論」で西川龍一解説委員が同様の趣旨の論を述べていた。「これでは沖縄の県民感情はどうなるんでしょうか」だと。これが天下のNHKか。
(平成28年9月28日付静岡新聞『論壇』より転載)