中国は台湾に対する好戦性と敵対性を増加しており、国際社会は「物質的な対立」により注意を払っている。専門家は台湾周辺で活動する中国の軍用機や海軍艦艇の数を精査し、物理的な戦争領域における人民解放軍の能力近代化に向けた中国の取り組みについては多くの記事が書かれている。
一方で中国は非物理的手段を通じて「世界の中心に向かって前進する」(走進世界舞臺中央)ことを実現しようとしている。「国連総会2758号決議」(以後「2758号決議」)を故意に歪曲しようとする取り組みを含む、中国の「法律戦」は同国が展開している「政治戦」の典型的な例であり、米国の外交官ジョージ・ケナンは「政治戦」を「国家の目的を達成するために、戦争以外のあらゆる手段を国家の指揮下に置くこと」と表現した。
一党独裁国家の中国における人民解放軍は国家の管理下にある「純粋な国軍」ではなく、党による統治を守り、党の利益を守ることを中核目標とする中国共産党の武装組織である。従って「政治戦」に代表される人民解放軍の非物質的な戦力投射能力を分析することは、中国の戦略を理解する上で依然として重要である。
人民解放軍において最も発達した「政治戦」の教義上・運用上の枠組みは「輿論戦(世論戦)」「心理戦」「法律戦」から成る「三戦」である。「三戦」は2003年の「人民解放軍政治活動指針」で初めて策定されたことで知られている。台湾に対して中国は「三戦」を実施することで1発の銃弾も用いずにこの民主的な島国を併合する可能性がある。中国は特に法律戦を通じ、台湾海峡危機の潜在的なエスカレーションと台湾侵攻のための法的環境を積極的に醸成している。
人民解放軍の「法律戦」は中国が自身の合法性と正当性を再定義するために法的及び疑似法的議論を構築しようとする努力から成り立っている。言い換えれば、人民解放軍は国内法や国際法を含む法律を利用・悪用して敵対者の正当性を否定し、自らの行動を正当化している。台中両岸の緊張関係で中国が展開する「法律戦」の手段には05年の「反国家分裂法」、24年6月に公布された「『頑固な』台湾独立・分離主義者を処罰するための22項目のガイドライン」、チェコなど中欧・東欧諸国を含む海外諸国の「一つの中国」政策と中国が掲げる「一つの中国」原則を意図して融合すること、そして最後に台湾に対する国際社会における中国の主張を正当化するための「2758号決議」の解釈の歪曲がある。
1971年10月25日に採択された「2758号決議」によって台北を拠点とする中華民国(台湾)政府は国連における中国代表の議席を失い、代わりに北京を拠点とする中華人民共和国政府がこれを得ることとなった。この決議は「国連における唯一の中国代表の地位」を中華人民共和国に与えたが、台湾の地位については触れていない。「台湾」という言葉は決議の文中にさえ出てこない。中国は決議の意味を積極的に歪曲し、この決議が台湾に対する中国の主権主張の根拠となり、国際機関からの台湾排除を正当化すると主張している。実際にはこの決議は「国連の機構における中国代表の問題」のみを扱っている。台湾の地位に関する国際法上の問題を解決するものではない。
「2758号決議」の解釈を歪曲するこれらの取り組みは中国の「法律戦」の手段であり、中国は国際慣習法の下での「一つの中国」原則に対する国際的承認を確保するため、この決議を悪用しようと積極的に試みている。中国が22年8月に発表した台湾に関する白書「新時代における台湾問題と中国の統一」は「2758号決議はその法的権威に疑いの余地がなく、世界中で認められている『一つの中国』原則を要約した政治文書である」と主張している。
中国が掲げる「一つの中国」原則では「世界には中国は一つしかなく、台湾は『中国の不可分の一部』であり、中華人民共和国政府は『中国全体を代表する唯一の合法政府』である」と規定している。しかし「2758号決議」が「一つの中国」原則の根拠となっているという中国の主張には全く根拠が無い。同決議は台湾の国際的地位、国際機関の活動に参加する能力、または台湾が中国の一部であるかどうか規定することを意図したものではない。そのような言葉は決議の文中には全く存在しない。
中国の主張にも関わらず、「一つの中国」原則の定式化は国際慣習法の中で普遍的に受け入れられているわけではない。チェコを含む世界の多くの国は変化する両岸関係に適応し、変更可能な独自の「一つの中国」政策を策定している。カーネギー中国の研究員、莊嘉穎(そう・かえい)は世界の国々の「一つの中国」問題に対する態度を10種類に分類し、この問題の複雑さと中国政府の強硬な圧力が普遍的に受け入れられるものではないことを明らかにした。
従って、中国の「法律戦」に対抗する取り組みとして、「『一つの中国』問題に関するコンセンサス」という神話に異議を唱え、中国の「一つの中国」原則と他国の「一つの中国」政策の定義を明確に区別することが不可欠である。
中国は台湾との経済・社会・文化の分野での非公式な交流を含むあらゆる関わりを「一つの中国」原則を歪曲し、空洞化させる取り組みと位置付けている。最近の中国は「2758号決議」と「一つの中国」原則を融合させることで台湾の国際的空間をさらに狭め、非公式ながら台湾との実質的な関係を継続している第三国に関する台湾の外交能力を押さえつけようとしている。
南アフリカが最近、台湾の連絡代表処を首都プレトリアの外に移転するよう要請したことがその好例である。南アフリカは98年に中国を支持し台北との外交関係を断絶したが、双方はプレトリアの台北連絡代表処と台北の南アフリカ連絡事務所を通じて実質的に関わり続けてきた。南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領が24年9月に北京を訪問した際、南アフリカと中国は共同声明を発表。南アフリカは「台湾は中国の不可分の一部」であると認め、「中国政府による国家統一に向けた努力」を支持した。その後、10月に南アフリカ政府は「2758号決議」を引用し、台北連絡代表処をプレトリアからヨハネスブルグに移転し「貿易事務所」に改称するよう要請した。台湾外交部によると、中国は23年のBRICS首脳会議以降、南アフリカに台北連絡代表処の移転を迫り続けてきた。台湾の林佳龍(りん・かりゅう)外交部長は「台湾はこの要請に応じない」と述べた。この問題がどのように解決されるかはまだ分からないが、「2758号決議」に関する疑わしい解釈を通じて、中国は台湾と関わる第三国に対する圧力を強化している。これは憂慮すべきことだ。
南アフリカの台北連絡代表処を巡る問題は「2758号決議」の歪曲に関する唯一の事例ではない。24年1月の台湾総統選で民進党が前例の無い3期目の総統選に勝利した2日後、ナウルは台湾との外交関係を断絶し、北京と外交関係を結んだ。ナウルのヤレン外相はこの「切り替え」を発表する際、「2758号決議」をその決定の根拠として挙げた。さらに今年の世界保健機関(WHO)執行理事会年次総会で、中国はベラルーシ、エジプト、ラオス、ニカラグア、パキスタン、ロシア、スリランカ、シリア、ベネズエラ、ジンバブエに対し、声明の中で「『2758号決議』は台湾の地位を確定した」と主張するよう促すことに成功した。これらの例は同決議が中国の「法律戦」の中心にあることを示している。
人民解放軍による「2758号決議」の歪曲を含む「法律戦」を認識したことで、民主主義諸国は「法の支配」を堅持し、国際平和と安全を維持するための防衛戦略を考案し始めた。米インド太平洋軍(INDOPACOM)の「『反法律戦』イニシアチブ」は称賛に値する例である。この構想は、コンセンサスを通じて「法的な合法性」をつくり、潜在的敵対者による法的優位を阻止することが目的で、法的手段を「非物理的戦争の道具」として利用・歪曲することに対する総合的な抑止力となる。台湾周辺の平和と安定を維持することは民主主義諸国にとっての核心的かつ戦略的利益であり、この方針は最近、EUも再確認している。
中国共産党の武装組織である人民解放軍が中国の覇権的野望を実現するために政治戦争に訴える中、「2758号決議」の解釈を歪曲する取り組みなど中国の破壊的な非物理的戦争を暴露し、抑止するために民主主義のパートナー同士で協力することが不可欠である。