筆者は令和6年12月12日、台北市内で開催された「国際軍民統合危機管理ゲーム」(以下「危機管理ゲーム」)にアドバイザーとして参加した。本危機管理ゲームは台湾国防大学隷下の「国際安全保障大学院」(GIIS)並びに「国際戦略研究大学院」(GISS)の主催によるもので、今回が14回目の開催であった。
台湾の大学・大学院18校から、21ヵ国約270名の大学生、大学院生、研究者等が参加していた。参加者が10~20名程度のグループに分かれ、米国、日本、韓国、中国、アジア及び台湾の各国政府を模擬したチームとして危機への対応をシミュレーションするものである。
シナリオは、東シナ海、台湾海峡、南シナ海で生起するグレーゾーン事態、ハイブリッド戦、検疫・隔離(Blockade)等の事態に各国が夫々の国益や現在の外交・安全保障政策を踏まえて如何に対応するかというものであった。台湾海峡のみならず東・南シナ海の平和と安定の重要性を理解するとともに、国際協調を図りつつ国力を総合して「武力の行使」の閾値以下の事態への対応を考えるという有意義なものであった。
他方でゲームの構成、実施要領などからも明らかなように、本危機管理ゲームの目的は主として参加学生等に対して安全保障上の脅威や事態に対する問題認識の醸成を図ろうとするものであり、実務者間の専門的な意見交換の場は限られていた。
今回の訪台期間中、頼総統が外遊中にグアム、ハワイ等に立ち寄ったことへの反発として、中国人民解放軍が多数の海軍艦艇や航空機を使った大規模な演習を台湾周辺で実施した。総じて台湾メディアの反応は冷静であり、淡々と事実のみを伝えるなどローキー(抑制的)な対応であり、台湾市民には特段の動揺も見られなかった。台湾軍関係者によるといつもの事でありメディア、市民共に慣れているとのことであった。情報戦、認知戦の観点からは台湾世論のレジリエンスを感じたが、大規模演習を中国が繰り返すことで台湾人が意図的に「慣れさせられている」ことの怖さも同時に感じた。
今回の演習に関連して中国が設定した「臨時予約空域」(Temporary reserved area)に関して、短い時間ではあったが台湾空軍関係者と議論することが出来た。「臨時予約空域」の国際法上の位置づけ等の理解に関し一部疑問を感じる発言もあり、改めて空に関わる国際法的な理解について普段から認識を共有しておく必要性を感じた。
本危機管理ゲームにはJFSS上席研究員の長尾賢氏(ハドソン研究所研究員)も日本チーム指導者として参加されており、大変お世話になった。改めてお礼申し上げたい。
「危機管理ゲーム」のパネルディスカッション(左端が筆者)
「危機管理ゲーム」会場前にて(右端から二番目が筆者、長尾賢氏(右端)と共に)