石破・トランプ初会談―「日米首脳共同声明」を別角度から観る―

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主任研究員 増永真悟

 2月7日、石破総理とトランプ大統領による初の日米首脳会談が開催された。大方の事前予想に反し、会談やその後に発表された「日米首脳共同声明」の内容をひとまずは「及第点」とする声が多い。
 「日米同盟」の観点からは2016年以来、安倍晋三総理(当時)が掲げてきた「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想が日米で引き継がれることが明言された。FOIPの実現の為、より多層的な協力体制として日米豪印(QUAD)や日米比などとの連携を強化する旨も謳われた。日米安保条約第5条に基づく尖閣防衛の言質も取り、台湾についても「一方的な現状変更の試みへの反対」や「国際機関への台湾参加支持」が明言された。
 本フォーラムの田北真樹子政策提言委員が昨年10月に述べたように(第184回Chat「大丈夫か、石破政権」記事参照)、石破氏が今後「自我に目覚める」危険性は残されているが、今回の日米首脳会談の成果はひとえに会談実現に奔走した安倍昭恵氏の功績であり、石破氏に対する事前レクを行った様々な人々の努力、同行した外務省や官邸職員らの支援による、我々日本人が得意とする謂わば「団体戦での勝利」と言えよう。

 一方、日本では共同声明の成果としてあまり注目されなかった側面がある。それは先端技術に関することだ。
 共同声明には「AIおよび情報共有を深化する為の安全かつ強靭なクラウドサービス等の新技術の活用によるものを含む、サイバー空間の分野における日米間の安全保障協力」や「AI、量子コンピューティング、先端半導体といった重要技術開発において世界を牽引する為の日米協力」といった文言が並んだ。現在、AIは世界中で爆発的に利用が増加しているが、その土台となっているのは短時間で効率的に大量の演算処理を担う先端半導体(以後「AI半導体」)だ。AI半導体は米国の「エヌビディア」(NVIDIA)が世界シェアの約9割を独占しているが同社は設計が専門であり、製造は台湾のTSMCに大きく依存している。
 今年1月13日、退任直前のバイデン大統領はAI半導体の新たな輸出規制を発表。AI半導体を無制限に購入可能な「ティア1」には日本、台湾、韓国、豪州、そして西欧諸国といったアメリカの重要な同盟国・パートナー国18ヵ国が指定。25~27年の2年間で合計50,000台のAI半導体を指定各国が購入可能な「ティア2」には世界の殆どの国が指定。「ティア1」に属する国が「ティア2」の国々へAI半導体を輸出する場合、米政府の許可が必要となる。AI半導体の輸入が完全禁止される「ティア3」には中国、ロシア、ベラルーシ、イランなどが指定された。この新規制は企業からの意見公募期間120日間を経て、1年以内に施行される予定になっており、施行の可否は続く第二次トランプ政権に委ねられた。
 そもそも対中戦略の一環として先端半導体を米国の輸出規制に盛り込み、米国内の半導体産業やAI産業への大規模な支援を行ったのは第一次トランプ政権だった。25年現在、NVIDIAが世界シェアを独占しているのも第一次トランプ政権の功績と言える。
 今年1月31日、第二次政権発足直後のトランプ大統領はNVIDIAのイェンセン・フアン最高経営責任者(CEO)と会談。フアン氏は1月13日に発表されたバイデン政権によるAI半導体輸出規制について「米国の競争力を削ぐ」と反発していた。トランプ氏とフアン氏の詳しい会談内容は公表されていないが、2月7日の日米首脳会談で「AIなどの重要技術開発において世界を牽引する為の日米協力」が謳われたことを鑑みると、NVIDIAに対して一社の利益でなく、米国の国益に沿うよう説得があったのではないか。
 また中国のAI開発は米国にとって脅威となっている。米国製AI半導体の輸入を厳しく制限された中国企業は中東や東南アジアに建設された、米国製AI半導体を使ったデータセンターを利用してAIモデルを作成しているとされており、現在、米国務省は中国発の生成AI「ディープシーク」(DeepSeek)の開発に対中輸出規制対象のAI半導体が使用されていないかを調査している。「世界一強」のNVIDIAはもはや米国の国家戦略をも左右する存在となっている。
 現代の国家戦略を左右する戦略物資であるAI半導体を含めた先端半導体。第一次政権時代からその有用性に着目し、権威主義国家による悪用の可能性を懸念してきたトランプ氏にとって、米のNVIDIA、台湾のTSMCを交え、日本と共にAIなど重要技術によって「世界を牽引するための日米協力」を行うことは、まさに自由主義国家の実践的な連携に外ならないのではなかろうか。