核開発を推進する北朝鮮が我が国周辺の安全保障の大きな脅威になってきた。図1「北朝鮮の核実験の歴史」を見てもらいたい。北朝鮮は、9月9日に5回目の核実験を実施したが、規模において過去最大規模(10~12kt級、地震の規模はM5)で、頻度的にも年2回の核実験は初めてであり、世界中にショックを与えた。北朝鮮の金正恩委員長は、並々ならぬ決意で核開発と弾道ミサイル開発を推進し、核弾頭を搭載した弾道ミサイル(以下、核ミサイルと表現する)を完成させようとしている。彼には米国や中国の反対も北朝鮮国内の悲惨な状況も眼中になく、ただひたすら自らの生き残りをかけて核開発と弾道ミサイルの開発に猛進している。
5回目の核実験は何を意味するか
図1が示すように、北朝鮮の核は着実にその威力を向上させているが、5回目の核実験を受けて、「北朝鮮は核の小型化にどこまで成功したのか」が筆者の一番の関心事項である。まず当事国である北朝鮮は、「核弾頭実験に成功した」、「各種の核弾頭を思い通りに生産できるようになった」と主張している。一方、韓国軍や韓国の情報当局は、北朝鮮は核爆弾の実験とミサイルの発射にそれぞれ成功したものの、核爆弾をミサイルの弾頭にするほど小型化するには、多少時間がかかるとみていた。しかし、韓国の国家情報院は9日、国会への報告で「スカッド・ミサイルに搭載できるほど弾頭を小型化するのが北朝鮮の目標だが、当初よりも速いスピードで進んでいる」と分析している。一方、韓国のマスメディアでは「金正恩労働党委員長の手に、ほぼ完成形の核ミサイルが握られた」と報道するところもある。
米国のニューヨークタイムズでは「2020年までに核爆弾の小型化の技術を獲得する可能性がある」と伝えている[1]。
しかし、バラク・オバマ大統領は、今回の核実験後に、「北朝鮮を核保有国として認めない」とコメントしている。核保有国として認めないということは、北朝鮮の核開発は米国に対する核抑止力として認めないということである。
中国もまた、朝鮮半島の非核化を主張してきた経緯もあり、北朝鮮を核保有国として認めていない。そして、中国の報道[2] によると、「北朝鮮の現段階の核開発の段階は、戦略核抑止の段階になっていない」としている。
北朝鮮が核爆弾の小型化に成功し、核ミサイルを完成させてしまうと手遅れになるので、北朝鮮に対して行動を起こすには今がリミットだという意見がある。
日米中韓は朝鮮半島の南北分断状態を是としてきた
北朝鮮の核と弾道ミサイルの開発問題が何故かくも長く解決できなかったのか。厳しい言い方をすれば、関係国である日米中韓が南北分断状態を是とし、北朝鮮の核と弾道ミサイルの脅威を真剣に排除しようとしてこなかったからである。表面上は北朝鮮の暴挙を非難しても、北朝鮮を生かさず殺さずの状態にしておく方が都合が良かったのである。
中国は、北朝鮮の戦略的緩衝地帯としての価値を評価している。中国は、北朝鮮を延命させ、米軍が存在する朝鮮半島南部分との間に緩衝地帯を維持したいのである。中国の優先順位は①朝鮮半島の安定特に北朝鮮が収拾のつかない混乱状態となり、大量の難民が流入する事態の回避、②米中が巻き込まれる第2次朝鮮戦争の回避、③北朝鮮の非核化、である。
米国にとって、北朝鮮は米軍のアジアにおける前方展開(在日米軍、在韓米軍)や国防予算獲得のための根拠となってきた。米国の優先順位は①北朝鮮の非核化、②米中が巻き込まれる第2次朝鮮戦争の回避、③朝鮮半島の安定、であり中国の優先順位とは違う。
韓国は、建前としての南北統一は主張するが、本音では統一に伴う大きな負担を回避したいと思っている。一例をあげよう、筆者がドイツに留学した1991年から1992年は冷戦が終了し東西ドイツ統一の直後であったが、韓国からの留学生の任務の一つは「東西ドイツ統一のために旧西ドイツが背負った負担の大きさを明らかにすること」であった。韓国人留学生の結論は、「ドイツの例を勘案すると北朝鮮との統一は韓国の負担が大きすぎるので、当面追求すべきではない」というものであった。
日本にとっても、反日国家としての韓国と北朝鮮が対立する状況は静観できる状況である。日本にとっての最悪の処方箋は、核を保有した状態での南北統一反日国家の出現である。
しかし、今回の核実験の衝撃は、以上のような甘い認識が許されない時代に入ったことを示唆している。ニューヨークタイムズの記事の通りに、北朝鮮が2020年までに核弾頭の小型化の技術を獲得するとすれば、残り4年しかない。弾道ミサイルの長射程化と核弾頭の小型化が確実に進行している状況が明らかになり、北朝鮮の核の脅威を多くの国々が認識したのである。今は、この脅威を排除するための有効な対策を検討することが急務となっている。以下では、関係各国がこの脅威に対処するために何をしなければならないかを考えてみる。
北朝鮮の核及びミサイル開発問題解決のための処方箋
目的は、北朝鮮の核及びミサイル開発を断念させることであり、そのための処方箋を考えてみる。外交活動などの平和的手段による問題解決の努力を継続することは当然であり、粘り強く北朝鮮に対する説得を継続すべきであろう。しかし、過去に試みた6ケ国会議の枠組みなどは、いたずらに北朝鮮に核ミサイル開発の時間を与えるのみであり、ここでは採用しない。以下の処方箋は、単なる外交的平和的な手段ではなく、強制力のある処方箋でありリスクを伴う。リスクを伴う処方箋でなければ、現在の北朝鮮の核ミサイルの危機を終息させることはできないという認識である。
●処方箋1:「北朝鮮に対する経済制裁、特に中国による経済制裁の完全実施」
この処方箋は、軍事力を使用しないで経済制裁(特に原油の供給を完全停止、中朝の経済交流を停止)のみで目的を達成する最も望ましい案である。この処方箋はひとえに中国の完全な経済制裁実施にかかっているが、北朝鮮の崩壊に伴う大量の難民の流入や北朝鮮という緩衝地帯を失うことを恐れる中国に対する米国等の説得が不可欠になる。
●処方箋2:「米軍及び韓国軍が北朝鮮国内の重要目標に対する限定攻撃能力を保持することによる抑止」
この処方箋は、米軍及び韓国軍が北朝鮮内の重要目標(金正恩委員長を含む指揮統制組織・司令部、核関連施設、ミサイル関連組織、軍需工場、空港、港湾など)に対する限定作戦能力を保持することにより、北朝鮮の核ミサイルの開発や攻撃を抑止する案である。米軍は、過去においてカダフィー大佐のリビアに対して実施した空爆作戦、オサマ・ビン・ラディンに対する作戦などを遂行した実績がある。
その処方箋の根拠は、今回初めて公表された韓国軍の「大量反撃報復概念(KMPR: Korea Massive Punishment & Retaliation)」である。なお、KMPRの一部の作戦は過去マスメディアで報じられた「斬首作戦」(decapitation strike)と似ている。KMPRについては後述する。
●処方箋3:「第2次朝鮮戦争の抑止」
北朝鮮の意思に基づく第2次朝鮮戦争の勃発や偶発的な衝突が第2次朝鮮戦争にエスカレートすることを抑止するための案であり、米軍と韓国軍が北朝鮮に対して圧倒的な軍事能力(攻撃力だけではなく、弾道ミサイル防衛能力も含めた能力)を構築することが前提となる。第2次朝鮮戦争の抑止において最も大切なことは、中国が北朝鮮に味方して戦争に参加することを絶対回避することである。
以上の処方箋を考慮しながら主要国が実施すべきことを以下に記述する。
中国が実施すべきこと
中国は、朝鮮半島の非核化を主張し続けてきたが、核保有国としての北朝鮮の誕生が近づいている。中国が言行一致を貫くのであれば、半島の非核化のために中国の果たすべき役割は大きい。そして、中国が決意さえすればその役割を達成することができる。
●北朝鮮問題に対する中国の責任
北朝鮮問題は実は中国問題であり、中国が北朝鮮に対して適切に決断し行動をするならば、北朝鮮問題の解決は可能である。アシュトン・カーター米国防長官は、今回の核実験に関して、「中国を名指しする。今回の核実験は中国の責任である」と手厳しく中国を批判し、さらに「北京は、その影響力を発揮し、ピョンヤンの無謀な行為をやめさせるべく圧力をかけるべきである」と主張している [3] 。
カーター国防長官が指摘するように、北朝鮮の核開発問題に対する最も大きな責任がある国は中国であり、中国が北朝鮮の命運を握っている。
●北朝鮮に対する経済制裁を確実に実施する
暴走する北朝鮮を抑止する最良の方策は、中国が北朝鮮への経済制裁を本気で完全実施することである。中国が処方箋1を採用すれば、北朝鮮の核及びミサイル開発を阻止できる可能性が高い。つまり、北朝鮮との経済活動を停止し、原油の供給を完全に停止してしまえば、北朝鮮は窮地に陥り、核ミサイル開発をやめざるを得ないであろう。
しかし、中国は、対外的には北朝鮮に対する経済制裁を実施しているように振る舞いながら、実際には抜け道を通じた経済制裁破りを行ったり、北朝鮮に対する国際社会の制裁を阻止したことさえある。
米国や日本の経済制裁の効果を台無しにしているのは中国である。国際社会は、北朝鮮に対する経済制裁を骨抜きにし、その延命を図る中国に対し処方箋1を採用するように圧力をかけるべきである。
●北朝鮮に軍事的圧力をかけて核開発を抑止する
中国は、中朝関係が悪化した時に、北朝鮮との国境付近で軍事演習を行い、中国の意図に背く北朝鮮に圧力をかけてきた過去がある。北朝鮮の核実験による環境汚染の可能性、行動が読めない核保有国が隣にできるかもしれない状況は中国にとっても不都合であろう。今回の核実験を受けて中国が北朝鮮に対し軍事的圧力をかけるか否かが注目される。
●第2次朝鮮戦争の抑止に努め、たとえ戦争が勃発したとして北朝鮮に味方し参戦しない
中国は、北朝鮮による第2次朝鮮戦争を抑止しなければいけないし、ましてや北朝鮮に味方して参戦すべきでない。中国は、第2次朝鮮戦争を抑止するために米国、日本、韓国、ロシア等と密接に連携するべきである。
韓国が実施すべきこと
北朝鮮の核開発と弾道ミサイルの開発の脅威を直接受けるはずの韓国の明確な戦略が今まで見えてこなかったが、5回目の核実験を通じて韓国の北朝鮮に対する戦略が少し見えてきた。
●「韓国型3軸体系」の実効性を高める
朝鮮日報によると、韓国国防部は9日、北朝鮮の核の脅威に対応して、「キルチェーン」(北朝鮮のミサイル発射の兆候をリアルタイムで探知して攻撃につなげる韓国軍の攻撃型システム)、KAMD(韓国型ミサイル防衛システム)の他にKMPR(韓国大量反撃報復概念)を追加して「韓国型3軸体系」を樹立したいという立場を示した。
しかし、この「韓国型3軸体系」では奇襲的な核攻撃を防ぐことは事実上不可能であるという韓国の専門家が多いし、筆者もそう思う。最大の理由は、リアルタイムの核ミサイル情報を取得する能力が欠落しているからである。核ミサイル発射に関するリアルタイム情報を韓国軍独自で入手できそうもない。米軍から早期警戒情報を入手すればよいではないかという当然の疑問はあろうが、韓国軍は米軍のBMDシステムとの連携を拒否しているために、米軍との情報の共有特にミサイル発射に関する早期警戒情報等を入手できない。韓国は、中国とロシア特に中国に対する配慮のために米軍との連携を拒否しているのである。国家の危機の時に中国やロシアに配慮するのではなく、米軍との密接な共同作戦を遂行できる軍事能力を高めることが必須である。
●韓国大量反撃報復概念(KMPR)の実効性を高める
9月9日付の聯合ニュースによると、韓国軍合同参謀本部のイム・ホヨン戦略企画本部長は、「北が核兵器で攻撃してきた場合、北の軍指導本部を含む指揮部を直接狙い反撃・報復する」、「同時に大量の精密攻撃が可能なミサイルなどを使い、精鋭特殊作戦部隊も用いる」と述べ、これを大量反撃報復概念(KMPR)だと紹介している[4] 。KMPRは、平壌の一定地域(金正恩委員長ら戦争指導部の拠点)を地図から完全に消滅させる概念で、地対地弾道ミサイルの「玄武2A」(射程300キロ)と「玄武2B」(射程500キロ)、巡航ミサイル「玄武3」(射程1000キロ)、開発中の射程800キロミのサイルを総動員する[5] 。
KMPRは、ミサイル攻撃に加え、特殊作戦部隊を用いて北の指導部を直接狙うのであろう。1月に実施された4回目の核実験のあとで「斬首作戦」という言葉がマスコミ等で使用されたが、国防部は3月7日のブリーフィングで、「国防部の作戦概念に斬首作戦という用語はない」と発表している。今回発表されたKMPRが韓国軍の正式な作戦概念であるが、KMPRに基づき特殊作戦部隊を使用する作戦は「斬首作戦」と似たようなものであろう。
●ミサイル防衛(MD)システムの実効性を高める
既に記述したように、韓国のミサイル防衛は、韓国型ミサイル防衛(KAMD)である。このKAMDは、敵のミサイルの終末段階をターゲットとした1層の防衛システムであり、主として短・中距離のミサイルへの対処を目指している。ちなみに、日本のBMDシステムはイージス艦から発射されミッドコース(中間航程)を担当するSM3と終末段階を担当するPAC3の2層の防衛システムであり、KAMDに比較すると敵ミサイルを破壊する確率は高い。
KAMDのみであれば非常に狭い範囲の防衛しかできなくて、広範囲な地域をカバーするミサイル防衛はできない。そこで韓国は、KAMDに加えてSM3とTHAADの配置を考えたが、SM3では首都ソウルを防衛することができない。そこでTHAADの重要性がクローズアップされてきたのである。ちなみに韓国のイージス艦3隻はSM3を装備していなくて、弾道ミサイルに対応できない。将来的にはSM3を搭載することになるという。
上記のTHAADを提供するのが米軍であるが、THAADの配備をめぐって朴槿恵大統領の決心はぶれた。昨年末までの朴槿恵政権は日本を慰安婦問題等で批判し、同盟国米国に背を向け、あたかも中国と同盟関係を締結したかのような振る舞いをしてきた。米国は、THAADの韓国内への配置を求めたが、中国のTHAAD配置反対の意向を受け、同盟国米国に対して前向きの回答をしてこなかった。THAADは、KAMDの弱点を補完する兵器であり、韓国の弾道ミサイル防衛不可欠であることを考えれば、極めて問題のある振る舞いであった。しかし、北朝鮮の核開発や弾道ミサイルの開発に影響力を発揮しようとしない中国に愛想を尽かし、THAADの韓国内配置を容認したことは韓国のMDを考えれば大きな前進である。
しかし、KAMDとTHAADをもってしても韓国のMD は北朝鮮のミサイルの飽和攻撃には脆弱である。更なるMDの改善が必要になってくる。
●参考:パトリック・クローニンの電磁レールガンによる韓国の抑止力強化案
ワシントンDCの新興シンクタンクCNAS[6] の上級顧問パトリック・クローニン[7] がナショナル・インタレストに「第3次相殺戦略(レールガン)が北朝鮮のミサイルを無価値にする」[8] という小論文を投稿し、レールガンを韓国が導入することによりミサイル防衛等に大きな変革をもたらすことができると主張している。
北朝鮮のミサイル実験では失敗も多いが、逐次成功する例もあり、短距離弾道ミサイルSRBM(スカッド)、準中距離弾道ミサイルMRBM(ノドン)、中距離弾道ミサイルIRBM(ムスダン)、ICBM(テポドン)、潜水艦発射弾道ミサイル SLBMの品ぞろえが不十分ながらもできてきた。しかし、これらのミサイルは、韓国がレールガンを導入することにより、無用の長物化するかもしれない。
クローニンによると、レールガンは、韓国の抑止力を次の3点において高めるという。①先制攻撃による抑止の観点では、レールガンの超高速飛翔体がその速度故にF-15から発射されるミサイル以上にタイムリーに目標を先制攻撃できる。②ミサイル防衛による抑止の観点で、レールガンは、費用対効果の点でパトリオット・ミサイルやTHAADを凌駕していて、韓国型ミサイル防衛(KAMD)システムとTHAADシステムを補完できる。③懲罰的抑止の観点では、陸上戦闘でも致命的な損害を相手に与えることができ、懲罰的な核抑止に対する通常兵器による対抗手段になりうる。以上のように、クローニンはレールガンの韓国導入に積極的な主張をしていて、CNASとしてのレールガンに関する提案をこの秋にも実施するとのことである。
(なお、レールガンに関しては筆者のJBpressの記事「中国を震え上がらせる秘密兵器、レールガンの実力」を参考にしてもらいたい。)
米国が実施すべきこと
北朝鮮の核ミサイル開発問題における米国の果たすべき役割は大きい。例えば、経済制裁強化、拡大抑止の信頼性向上、北朝鮮内の限定目標に対する攻撃、BMDの強化などである。
●経済制裁等の非軍事的手段を使った北朝鮮の抑止
より実効性のある経済制裁を追求すべきである、特に中国を説得して完全な経済制裁(原油供給の停止など)を実施させることが急務である。
●拡大抑止(核の傘)の信頼性の向上
オバマ大統領は、9月9日の日米電話首脳会談で、「拡大抑止を含め、米国の日本に対するコミットメントは揺るがない」と強調した。米国のラッセル国務次官補も稲田防衛大臣に対して、「米国が保有する能力を使い、米国及び日本を守る用意がある」と伝えたという。ここで問われるのは、米国の拡大抑止の信頼性向上のために具体的に何をするのかということである。北朝鮮が核保有国になれば、日本や韓国はその脅威を受け、米軍の核の傘の信頼性は低下する。在日米軍基地や在韓米軍基地も脅威を受ける。この状況を改善するための具体的な方策が求められる。以上の諸問題に対処するためには、北朝鮮に核兵器を持たせないことがベストの選択になる。そのための具体策が今求められている。
●北朝鮮内の限定目標に対する攻撃
韓国の大量反撃報復概念(KMPR)に連携して北朝鮮の指導部、核関連施設、ミサイル関連施設などをいかに排除するかが焦点になる。米国はかつてリビアの独裁者カダフィー大佐に対する空爆等を実施してきた。金正恩委員長に対して同種の作戦を実施するのか否かが問われている。
●弾道ミサイル防衛の強化と同盟国への技術供与
米軍はTHAAD、SM-3、PAC-3などを使用したBMDシステムを構築しているが、このシステムの実効性を高める努力を継続することになる。
また、現在開発中の電磁レールガンや指向性エネルギー兵器(固体レーザーや高出力マイクロ波兵器)を早急に完成させ、その技術を日本や韓国にも提供すべきである。
日本が実施すべきこと
我が国の北朝鮮問題への対処手段は限られている。経済制裁(国連主導の制裁、日本独自の制裁)を実施すること、BMDの実効性を向上すること、敵基地攻撃能力の開発などである。
●敵基地攻撃能力の開発
日本の北朝鮮軍事施設に対する報復能力(敵基地攻撃能力)が喫緊の課題になる。核ミサイルを撃たれても、自衛隊は報復能力を持っていない。報復能力については全て米軍に頼っている。我が国は、報復能力としての長距離弾道ミサイルや巡航ミサイルの開発に着手すべきである。
敵基地攻撃に関する政府統一見解では、「法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である[9] 」。北朝鮮が核ミサイルの技術を完成させつつある現状において、日本の報復能力の保持は論理的に妥当な帰結である。米軍と自衛隊の盾と矛の役割分担の修正をすべき時代になったのである。
●弾道ミサイル防衛の更なる整備
在日米軍基地や我が国の都市が北朝鮮の弾道ミサイルの攻撃目標になる可能性があるが、日本のBMDはイージス艦から発射されるSM3とPAC3を主体とする2層の防衛である。そのBMDシステムは、単発のミサイルには対応できたとしても、北朝鮮のミサイルによる飽和攻撃への対処には難がある。更なるBMDの改善が必要である。その将来的な改善策としてレールガンとレールガンの開発を通じて誕生した超高速飛翔体(HVA)の活用を提案したい。
・レールガンと超高速飛翔体(HVP:Hyper Velocity Projectile)は一体の兵器
図1を見てもらいたい。図1が示すように、レールガンは一つのシステム兵器であり、ランチャー(発射装置)、超高速飛翔体(HVP)、エネルギーを供給する電源装置からなっている。HVPはレールガンの一部であり、レールガンの開発を通じて誕生した画期的な兵器であり、開発の具体的な成果物である[10] 。
HVPは、レールガン開発における画期的な成功例である。レールガンは、一部の者が主張する「失敗作」でも「役立たず」でもないのである。
図2「レールガンの砲身と超高速飛翔体(HAV)」 出典:Office of Naval Research
レールガンの開発を推進してきたロバート・ワーク国防副長官の発言によると、国防省は、次期大統領に対して選択肢を提供しようとしているのであり、その選択肢は、レールガン、HVP、高出力エネルギー兵器(レーザー兵器、高出力マイクロ波兵器)の3つである。
・レールガンから発射するHVPと海軍艦船の砲から発射するHVPでは威力が違う
HVPはレールガンからでも海軍艦船の砲からでも発射可能であるが、電磁レールガンから飛翔体を発射するのと、海軍艦船の砲(5インチ砲、6インチ砲)から飛翔体を発射するのでは明らかな性能の差がある。レールガンからHVPを発射するとマッハ6まで加速され、有効射程は200㎞で、1分間に10発の射撃が可能である。しかし、同じHVPを海軍艦船の砲から発射すると60㎞の有効射程しかない。明らかな性能の差があるのである。
・次期大統領に残す3つの選択肢
レールガンから発射するHVPと海軍艦船の砲から発射するHVPは性能の違いを考慮し、国防省としては、最も高い性能を示すレールガン、大電源を必要としないHVP、レーザー兵器等の高出力エネルギー兵器の3つの選択肢を残し、いずれを採用するかは次期大統領に判断してもらおうとしているのである。
・NAVSEA(海軍海洋システムコマンドNaval Sea Systems Command)が提示する運用例
下図は、NAVSEAが提示するレールガンとHVPの運用構想である。海上配備レールガンから発射されるHVP、地上配備レールガンから発射されるHVP、艦艇の5又は6インチ砲から発射されるHVPが破壊目標である弾道ミサイル、巡航ミサイル、航空機、水上艦艇、NSFS(Naval Surface Fire Support海軍海上射撃支援)部隊を攻撃している図である。この運用例は自衛隊にとっても参考になる。
図3「レールガンと超高速飛翔体の運用」 出典:NAVSEA
結言
北朝鮮の核ミサイル関連技術の取得は、我が国周辺の安全保障関係を根本的に変えるものである。我が国にとって非常に危険な状況、少なくても弾道ミサイルの攻撃を受ける危険性が高まった状況になった。我が国はこの新たな環境に対して、真剣に対処しなければならない。日本単独でできること、米国・中国・韓国との関連で実施しなければならないことを明確にし、それらを具体的かつ実効性をもって解決しなければならない。今までの様に、ただ単に専守防衛をスローガンに我が国の安全保障を語る時代は過ぎ去ったのである。
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[1] “North Korea Will Have the Skills to Make a Nuclear
Warhead by 2020”, New York Times Sept 9 2016
[2] Global Times,
N.Korean nuclear test short of strategic deterrent
[3] “Ash Carter Says China Shares Responsibility for
North Korea Nuclear Test”, Wall Street Journal, September 10 2016
[4] http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2016/09/09/0200000000AJP20160909007200882.HTML
[5] http://japanese.yonhapnews.co.kr/northkorea/2016/09/11/0300000000AJP20160911000100882.HTML
[6] CNASは、The
Center for a New American Security、新アメリカ安全保障センター
[7] パトリック・クローニンは、CNASのアジア太平洋安全保障プログラムの上級顧問
[8] Patrick M. Cronin, How the Third Offset(Think
Railguns) Could Nullify North Korea’s Missiles
[9] 衆議院・内閣委員会(昭和31年2月29日)鳩山総理答弁船田防衛庁長官代読答弁
[10] 議会調査サービスの“Navy Laser, Railgun, Hypervelocity Projectile:
Background and Issues for Congress”(Ronald O’Rourkeロナルド・オロルケ報告書)