自民党総裁選では高市早苗氏が圧勝した。最大の敗者は大手のオールドメディア、そして特定の政治意図をちらつかせて高市氏敗北を断言していた「専門家」たちである。高市氏以外の候補の勝利を一貫して断言し、選挙の当日まで誤った展望を広めていた。これほど明白な錯誤もないだろう。この錯誤は果たして偶然なのか、それとも意図的なのか。もし意図的だとすればテレビ局の場合、放送法の明確な違反となる。この点での今回の自民党総裁選での誤報のばらまきは徹底して検証されるべきだろう。
高市氏の勝利は圧倒的だった。自民党総裁選での1回目の投票では183票と2位の小泉進次郎氏の164票を着実に凌駕し、他の3候補をはるかに引き離した。決戦投票でも185票と156票と、これまた小泉氏を圧した。特に党員・党友の支持では全国都道府県のうち36票と、小泉氏の11票を圧倒した。小泉氏が優位だとされた国会議員票でも高市氏は185票と小泉氏の156票を寄せつけなかった。
さてこんな現実とはまさに対照的に主要な新聞やテレビは小泉氏優位、あるいは小泉氏勝利確実という誤った情報を流し続けた。その一例を挙げよう。10月4日の総裁選のつい前日、つまり10月3日のテレビ報道である。翌日に迫った総裁選の結果を早くも具体的な数字まで挙げて報じたのだ。
「自民党総裁選 “票”の行方は・・・」と題する番組だった。主要全国ネットワークのテレビ局の報道である。他の局も、そして大多数の主要新聞も同様の事前報道をしていたので、あえてこの局の名は挙げないが、一般の認識としてはどこだかは明白だろう。
この報道は総裁選5候補の名前を明記し、顔写真までつけて、各候補の獲得する票の数を明示していた。
小泉進次郎氏 約200票(うち国会議員90、党員・党友110)
高市早苗氏 約120票(国会議員50、党員・党友70)
林 芳正氏 約100票(国会議員60、党員・党友40)
茂木敏充氏 約 40票(国会議員30、党員・党友10)
小林鷹之氏 約 40票(国会議員30強、党員・党友10)
上記のような具体的な数字を棒グラフまでつけて明示していたのだ。しかも実際の選挙での投票・開票の24時間以内の至近だった。こんな具体的な数字がなぜわかるのか。独自の世論調査や取材だというのだろう。だが結果として大間違いなのである。
この「大ミス」は他の多くのメディアにも共通していた。しかもみな特定の方向への錯誤だった。小泉氏の勝利が確実であり、高市氏は勝てない、という宣託なのである。同時にこの種の大手メディアは政治の専門家とか評論家とされる人たちの「小泉氏が優勢」とか「小泉氏の当選が確実」、あるいは「高市氏は勝てない」という趣旨の論評を頻繁に紹介していた。
この錯誤のパターンが小泉氏の勝利が確実だとする点で多数のメディアの予測があまりにも一致していた。そうなると、これは単なる予測作業のミスだったのか、という疑問が当然、生まれてくる。特定の候補だけを持ち上げ、褒め讃え、選挙の結果がすでに決まったかのように報じる。そうなると、そこに特定の意図があるとみるほうが自然だろう。
そんな意図とはそのメディア自体の好き嫌いがまず考えられる。そしてその好きな候補を有利に、嫌いな候補を不利にするための予測内容の操作が考えられる。特定の候補の勝利がもう決まっているとう予測を拡散すれば、自民党の国会議員や党員はそれでは勝つ候補に自分も投票しようという方向へ傾きうる。これはアメリカではバンドワゴン効果と呼ぶ。走り出す幌馬車に自分も飛び乗ろうという一種の群衆心理だとも言える。だが今回の選挙では投票者の多くは賢明にも、そんなメディアの誘導には乗らなかったといえよう。
実際の選挙の結果、まちがった予測を打ち出していたテレビや新聞はたぶん「世論調査の結果がまちがっていた」とか「独自の取材が誤っていた」と弁解するだろう。だがその種の調査や取材がどんな実態だったのかは外部からはまったくわからない。特定の政治意図が前提となる調査や取材ではなかったと明言できる客観的な証拠はまったくないのだ。
主要テレビ局がこれほど誤った情報を拡散していたことは放送法の規定に違反する疑いも濃い。放送法では「不偏不党」や「政治的な公平」が明確に謳われているのだ。どこかから今回の自民党総裁選挙でのテレビ局の報道の内容が放送法に違反したとする訴えが出ても不思議はないだろう。なにしろ日本の国民や国家の民主的な意思を特権を有するメディアが勝手に自己中心の意図の下にねじ曲げるようなことがあっては、日本の危機にもつながるのである。