イギリスの公営放送BBCと言えば、日本では極めて名声の高いメディアだった。グローバルな報道と論評で知られ、日本では不偏不党という評判をも得ていた。だが現実にはこのメディアは左傾斜、保守嫌い、特にアメリカのトランプ陣営に対しては悪意の批判的なスタンスを見せてきた。その左偏向がいまや最も露骨な形で証明された。
BBCがトランプ大統領の述べなかった言葉を巧妙な手段ででっち上げ、同大統領が国民に暴力行動を煽ったかのようなフェイクニュースを流していたことが暴露されたのだ。そしてBBCの会長はその不正行為の責任を取って辞任した。同様の左偏向を示す日本の大手メディアも見習うべき、責任の取り方だと言えるだろう。
イギリスの公共放送BBCのティム・デイビー会長とデボラ・ターネス報道局長は11月9日、辞任を発表した。その理由として「報道にいくつかの間違いがあり、最終的に会長などとして責任を取らねばならないと判断した」と言明した。その「間違い」は明白だった。単なるミスではなく意図的なフェイクニュースの流布だった。アメリカのトランプ大統領が実際には述べていない言葉をでっち上げ、いかにも同大統領が暴力行為を煽ったかのような偽報道をしていたのだ。日本の主要新聞などは「意図的編集」とか「恣意的編集」という表現を使っているが、実態は間違いなく虚偽、捏造と呼ぶ方が正確である。だからその産物はフェイクニュースとなる。
この虚偽報道の実態はイギリスの大手新聞テレグラフによって暴露された。この新聞はどちらかと言えば保守志向である。そのスクープ報道はBBC内部関係者からのリークだった。その虚偽部分はアメリカの首都ワシントンで2021年1月6日に数百人の群衆が連邦議会の議事堂に乱入した事件の報道だった。当時、トランプ陣営は2020年11月の大統領選挙で民主党のジョセフ・バイデン氏が勝ったとされたのは不正投票の結果だと抗議していた。トランプ氏自身もこの不正の主張に同調していた。だがトランプ氏が暴徒とされる群衆を直接に扇動して、議事堂に不法に乱入させた、というわけではなかった。
このBBCの不正報道は2024年10月の「パノラマ」というドキュメンタリ―番組に組み込まれていた。この人気ある定期番組はこの回ではトランプ大統領が復帰するか否かを主題としていた。そのなかでこんな報道があった。2021年1月6日の議会乱入事件でのトランプ氏の役割について明らかに同氏が直接に扇動したと断じていたのだ。乱入事件の直前のトランプ氏の演説としての報道だった。
「われわれは議事堂へと行進する。私もあなた方とともに出かけて、ともに戦う。われわれは必死で戦う。もし必死で戦わなければ、国を失ってしまう」
BBCは以上のように報じたのだった。そのなかの赤字部分はトランプ氏が実際には口にしていない言葉だった。トランプ氏のこの時点で実際に口にした言葉は以下のようだったのだ。
「私たちは歩いて行こう。議事堂へ歩いていって、勇敢な上院議員や下院議員に声援を送ろう」
つまりは「戦う」とか「議会への乱入」「暴力行為」などという扇動の語句一切、口にしていないのだ。
BBCがトランプ氏の言葉として「戦う」などという表現を記したのは同氏のまったく別の課題についての言辞の引用だった。トランプ氏が選挙の腐敗一般について述べた非難の言葉だった。
「アメリカの選挙は腐敗している。何かが間違っている。われわれは戦う。われわれは必死で戦う。もし必死で戦わなければ、国を失ってしまう」
以上の赤字部分は集まった群衆に議事堂へ向かって戦え、という檄ではまったくなかった。だがBBCは意図的にそこだけを切り取って1月6日の議事堂襲撃への煽りとして報じたのだ。要するにトランプ氏の別の場所での別の声明の都合だけよい部分を切り取って、議事堂襲撃の直接の扇動の言葉として使ったのだった。
これは単なる編集ではない。同じトランプ氏の言葉だとは言え、まったく別の機会に別の課題について述べたことの言明に挿入したのだから、実態は捏造であり、でっち上げだった。日本の一部の新聞記事の見出しのような「恣意的な編集」とはまったく異なる。恣意的とは正反対の明確な特定意図に基づく創作だった。悪質な虚報であり、フェイクだった。BBC首脳はその非を全面的に認め、責任を取って辞任したのである。
BBCのこの虚報は明らかにトランプ氏を悪者扱いにする意図的な捏造だった。その背景にはイギリスの大手メディアの間でも保守主義のトランプ氏に反対するリベラル志向、グローバリスト傾向が強いことの象徴だった。イギリスの新聞では日本でもよく知られたフィナンシャル・タイムズは特にトランプ叩きの傾向が強い。このリベラル系新聞はいまでは経営上、日本経済新聞の傘下にあるが編集面ではまったく独立のようで、イギリス人のリベラル系ジャーナリストが連日のようにトランプ大統領を厳しく批判する記事を載せている。BBCも公共放送とは言え、そんなリベラル傾向が強かったのだ。
米国でもニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNなどの大手メディアが民主党支持、トランプ陣営敵視の顕著な政治偏向を示してきたことは周知の事実だと言える。いまではまったく虚構と判明したトランプ陣営に対する「ロシア疑惑」も当初はこれら大手メディアが事実であるかのように大々的に報道した。そのうちニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストは「ロシア疑惑」報道でピューリッツア賞まで受賞した。「ロシア疑惑」とは2016年の米国大統領選の際にトランプ陣営がロシア政府と不正に共謀して、米国有権者の票を不当に操作したという疑惑だった。だがこの疑惑には根拠がなかったことが特別検察官の長期の捜査などで判明した。だからトランプ大統領自身はこの報道でのピューリッツア賞のキャンセルを求めている。
今回のBBC事件も米欧のこうした民主党傾斜、リベラル系のメディアの偏向を如実に示したと言える。