高市早苗首相が3月中旬、米国を公式訪問する。では首相を迎える米側ではどんな反応が予測されるのか。現地のワシントンで実際に考察した連邦議会の対応などを報告しよう。
トランプ大統領、そしてトランプ政権が高市首相を熱く歓迎することは疑いない。トランプ・高市両首脳の価値観や政策の一致はすでに昨年秋のトランプ大統領の訪日の際に明確となった。両首脳は安全保障を主体とする広範な国際課題について歩調が合致していることを明らかにしたのだ。
だが高市首相は米国の首都ワシントンではトランプ政権だけでなく野党の民主党を含む連邦議会との接触も予定されている。米国では行政府だけでなく立法府の存在はきわめて大きい。一般国民の希望や期待を直接に反映するのはまず立法府である議会の存在だからだ。
私はその連邦議会でこの3月5日、現役の議員たちの高市首相訪米に対する見解を直接に聞く機会を得た。結論を先に述べれば、いまの米国議会では共和党と民主党との対立は激しいが、こと対日関係となると、超党派の前向き姿勢が共通しており、高市首相の来訪も両党とも温かく迎えるという状況なのである。
私はこの日の夕方、連邦議会上院のラッセル議員会館内の大講堂でのパーティーに出席した。超党派の議員たちが加わっての日本酒の生産の各州での広がりを語り、祝うという珍しい集いだった。「日本酒レセプション」と題されたこの集まりは在米日本大使館と米側生産者の「北米酒造組合」が連邦議会に呼びかけて開かれた。
米国では近年、日本酒への人気が高まり、合計10州で醸造工場が開かれた。この集いでは日本側メーカーからの支援の表明とともに、日本酒工場を抱えた各州の連邦議員からの報告が主体となった。集会ではまず在米日本大使館の山田重夫大使が高市首相来訪の直前にこの種の日米友好の集いを開催する意義は大きいと挨拶した。
米国議会側では合計7人の現職議員が参加した。そのなかでカリフォルニア州選出のマーク・タカノ下院議員(民主党)は壇上に立って「日本初の女性総理の高市氏の来米直前の時期に日本酒普及を祝うのはまさに日米友好の象徴だ」と言明した。
タカノ議員は名前が示すように日系米国人で、連邦議会の下院では当選7回のベテランである。下院では教育委員会や退役軍人問題委員会で活動してきた。外交政策では民主党穏健派としてトランプ政権の政策に反対することも多いが、こと対日政策では歩調を合わせ、高市首相の訪問を歓迎すると表明したのだった。
いまの米国連邦議会では上下両院とも共和党が多数を占め、トランプ政権の政策を支持するという構図が明確となっている。他方、野党の民主党はトランプ政権のベネズエラ攻撃、イラン攻撃などには激しく反対する。国内政策でも議会民主党議員たちのトランプ政権への反発は激烈と言える。だがそんな構図のなかで日本の高市政権の政策や、特に日米同盟の堅持路線となると、民主党議員の大多数も前向きとなり、トランプ政権の基本姿勢には同調することが多いのだ。タカノ議員の言明はそんな民主党側の状態を反映していた。
さてではこの集いに参加した他の連邦議員たちは高市首相の来訪をどうみているのか。
私自身が個別に議員に直接、声をかけ、質問してみた。
サウスカロライナ州選出のジョー・ウィルソン下院議員(共和党)に高市首相の来訪に関して米国側で特に重視する点は何かと問うてみた。同議員からは次のような答えが返ってきた。
「まず高市首相に米側からのサンキューという言葉を伝えたい。なぜなら高市首相が中国に対して毅然たる態度をとってくれたからだ。その態度は米国の政策や戦略利益に資するのだ」
ウィルソン議員はもちろん高市首相の台湾有事に関する国会での発言とそれに対して反発し、多様な威嚇や制裁の言動をとってきた中国政府への高市首相の堅固な態度を賞讃しているのだった。同議員のこの言葉は重要だと言える。なぜなら同議員は連続当選13回の超ベテランでトランプ政権にも極めて近いからだ。
ウィルソン議員は下院全体でも共和党の首脳部に近く、外交委員会、軍事委員会で活躍してきた。中国やロシアに対する強固な政策は保守派のなかでも特にトランプ大統領の思考に至近だとされてきたのである。同議員は私との立ち話でも、熱心に身を乗り出し、日米共同防衛の重要性について語るうち、自分の4人の息子はすべて米軍の現役将兵なのだと告げて、その息子たちの写真までを見せてくれた。
次にアーカンソー州選出のフレンチ・ヒル議員(共和党)に同じ趣旨の質問をぶつけてみた。具体的には「高市首相には今回の訪米では米側に対してまず何を提起して欲しいと期待するか」という問いかけだった。ヒル議員には以前も何回か会って言葉を交わしたことがあったので、気軽な感じの話しかけとなった。しかしヒル議員は私のこの問いにきりりと口元を引き締め、真剣に考える表情となった。そして数十秒の沈黙の後に言葉を選びながら。次のように答えた。
「貿易問題だと思う。安全保障が重要であることは明白だが、その領域では日米両首脳は既に基本合意をきちんと固めている。だからトランプ政権がなお日本側に期待する貿易面での前向きな協力姿勢を示せば、米側にとっては貴重な動きになる」
要するに両首脳間では安全保障は既に緊密な絆ができているので、この訪米では高市首相がトランプ大統領の喜ぶ貿易問題での日本側からのイニシアティブを示すことがベストになるだろう、という期待の表明だった。
ヒル議員は連続当選6回だが、経済や財政問題に詳しく下院の財政委員会の委員長を務めてきた。また下院インテリジェンス特別委員会でも活動した。日本との間でも日米議員交流や財界人交流に長年関わり、日本側の知人友人も多い人物である。
以上のように議会内部でのパーティー会場での非公式な接触や考察ではあるが、議会全体として、共和党、民主党の区別を問わず、高市首相の来訪を友好的かつ前向きに受け入れる姿勢は明白だと言える。