ロシアのプーチン大統領を見ていると“独裁者の愚かさ”を痛感する。英国の公共放送BBCニュースによると、英国最大のスパイ機関は、ロシアが2022年2月にウクライナへの全面侵攻を開始して以来、約50万人のロシア兵が死亡したと言う。この数字がどこまで正確かは確認のしようはないが、ロシア(兵士を派遣している北朝鮮を含む)、ウクライナの双方で膨大な尊い命が奪われたことは確実だ。これだけの人命を奪って恬淡(てんたん)として恥じないとすれば、それはもう人間の所業ではない。
このプーチンに対して、6月4日、ウクライナのゼレンスキー大統領が書簡を送った。もちろん真剣に愚かな侵略戦争の終結を求める内容であったが、そこにはプーチンへの嘲りも含まれていた。
書簡にはロシアが軍事的、経済的に疲弊していることが率直に記され、「ロシア国民はウクライナのドローンやミサイルによる攻撃、ガソリン不足、物価高、そして戦争に疲れ果てている。この戦争から抜け出す道を進むことを恐れてはならない。それが今、あなたに求められている最も重要なことだ」と訴えたものだった。上から目線である。
実際、ロシア国内では厭戦(えんせん)気分が広がっている。プーチンの言いなりの政府系調査機関でさえ、プーチンへの支持率が侵攻後、最低になっていると公表している。またゼレンスキーは書簡でプーチンの在任期間の長さや高齢についても言及している。この種の書簡では珍しいことだろう。
プーチンが窮地に陥っていることは間違いない。だからこそ身内の反乱や暗殺を極度に恐れているのだ(5月29日付産経新聞に詳しい)。ウクライナ大統領府顧問であるポドリャク氏は、終戦への道筋として次の3点を指摘している。①ロシアのグローバル市場へのアクセスを制限し、戦争の資金源を縮小させる ②ウクライナによるロシア領深くへの攻撃を大幅に増やす ③各国が「弱腰の外交」をしない――ことを挙げている(6月6日付朝日新聞)。
筑波大学の東野篤子教授は、7日付の朝日新聞で「日本では、ロシアからエネルギーを買い続けるとウクライナ攻撃のための資金へと転用されかねないという意識が、あまりにも欠如している」と指摘し、日本も「軍事か、外交か」ではなく、「『軍事も外交も』強化することが重要」「二者択一の議論から日本は脱却する必要がある」と指摘する。重要だ。
ところで社会主義時代の旧ソ連も、現在のロシアも独裁政党、独裁者が牛耳る全体主義国家だ。そのロシアのプーチンがウクライナを「ネオナチ」だと批判する。この倒錯はどこから生まれるのか。川北省吾著『新書 世界現代史』(講談社現代新書)によると、それは「ウクライナは国ですらない」という前提に立っているからだという。「小ロシア」に過ぎないウクライナが国家主権を掲げるのは、ヒトラーのような「極右ナショナリスト」だからだという。
かつてのロマノフ王朝、ソ連帝国のように瓦解が必至なのは、プーチン帝国なのではないのか。