中国のEV車の普及により高まるサイバーリスク
―IoT社会に備えるべき日本―

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政策提言委員・金沢工業大学特任教授 藤谷昌敏

 中東危機による燃料価格上昇を受け、世界で電気自動車(EV)の販売が急増している。
 米国とイスラエルによるイラン攻撃で原油価格が急騰した。ガソリンの価格上昇や供給不安が世界に波及したことで、EV普及は、規制・補助金主導から市場主導に変わりつつある。
 国際エネルギー機関(IEA)は、5月にまとめた報告書で今回のエネルギー危機への対応が「今後何年にもわたって世界の自動車市場を形作ることになるだろう」と指摘した。
 1970年代のオイルショックは燃費の悪い大型車の市場を冷え込ませ、小型で燃費効率の良い日本車が世界を支配する契機となった。EVを購入する消費者が増え、理解が深まれば、中東情勢が沈静化してもEVシェア拡大の流れは続く可能性がある。
 こうしたEVシフトが進む中で中国メーカーが存在感を高めている。中国の業界団体が発表した4月の輸出台数は7割増の90万台だった。東南アジアではすでに中国勢の低価格EVが日本車のシェアを奪い始めた。
 こうした中国メーカーの著しい躍進は、ただEV車が増加するだけにとどまらない。その裏面には様々なリスクが潜在している。
 
大阪万博のEVバスのトラブル続出
 万博で使用されたEVバスは、万博後に自動運転の実証実験や脱炭素社会の推進に活用する予定だった。だが、万博の期間中に停車後に動き出したり、ブレーキが利かなかったりするトラブルが相次ぎ、大阪メトロは、安全上の懸念から万博後、使用しないことに決めた。
 このバスを販売したのは、EVMJ社(EVモーターズ・ジャパン、本社北九州市)で、販売した190台中150台を万博で運行したものの、期間中に計832件の不具合が発生した。運用した大阪メトロは調査報告書で「安全リスクの認識不足」「企業風土の問題」を認め、補助金返還を含め 67億円規模の損失 を計上している。
 今年5月18日には、EVバスが大量に留め置かれていた大阪メトロの敷地から撤去作業が始まり、大阪メトロはEVMJ社側に購入代金の返還、違約金請求と車両の引き取りを求めている。ただ、4月に同社は「資金繰りの懸念」を理由に民事再生の手続きを開始しており、問題の先行きが不透明となっている。
 EVMJ社のバスを製造したのは、「威馳騰汽車」(Wisdom Motor/中国)であり、EVMJは自社工場を持たない「ファブレス」企業で、車体生産は中国メーカーに委託していた。他のトラックなどは中国中車(CRRC)、北京汽車(BAW)なども担当していた。日本で行われた工程は「最終組立・検査・料金機器の取り付け」程度で、実質的には 中国製EVバスを日本向けに仕上げたものだった。
 この問題は、EVMJ社のずさんな管理と大阪メトロの責任問題で終始しているように見えるが、実際の問題はもっと深いところにある。
 
EVMJ社の車両は軍民融合の中国メーカー製
●威馳騰汽車(Wisdom Motor)
威馳騰(福建)汽車有限公司は、表面的には香港企業の独資だが、福建漳州開発区に拠点を置く中国本土の新興商用車企業である。軍事用の大型トラック(最大続航 1,000km の大型燃料電池トラック)、自動運転トラクター(弾薬・物資の自律輸送、危険地域での無人補給、軍事基地内の自動化物流)などを製造している。
 
●中国中車(CRRC)
「世界最大の鉄道車両メーカー」であると同時に、中国の軍民融合戦略の中核を担う国有企業である。高速鉄道・都市交通・重工設備・電力電子・AI・材料工学などの技術は、PLA(中国人民解放軍)の兵站・戦略機動・指揮通信・無人化装備に直接転用可能であり、「典型的なデュアルユース巨大企業」である。
 
●北京汽車(BAW)
北京汽車(BAW:Beijing Automobile Works)は、中国で最も典型的な「軍民融合型自動車メーカー」の1つである。本来、軍用車両メーカーとして出発し、中国軍の軽戦術車両を長年製造している。軍用技術を民生車に転用する構造が企業の中核という点で、軍民融合の理念そのものを体現している。
 
なぜ、中国の軍民融合企業製の車両は問題なのか
 ノルウェー最大の公共交通事業者「ルーター」は2025年10月、中国「宇通」製電気バスに深刻なセキュリティホール(脆弱性)が見つかったと発表した。「宇通」側は、SIMカードを通じて遠隔でソフトウェア更新をインストールする権限を有していた。その過程でバッテリーや電源供給制御システムにアクセスできる。ルーターは「理論的には、メーカー側がこのバスを運行停止や機能不能の状態にすることができる」と付け加えた。ノルウェーでは全国で電気バス約1,300台が運行しており、そのうち約850台が宇通製だ。
 またポーランド軍は2026年2月、軍事基地内での中国製車両の走行禁止を発表した。中国製車両の映像(カメラ)、音声(マイク)、位置情報(GPS)、通信データ(テレマティクス)などが作動すれば、施設配置、警備体制、車両・人員の動きなどの機密情報が外部に漏洩する可能性がある。ポーランドは NATO の前線国家であり、中国製のコネクテッドカーが軍事情報収集のプラットフォームとして利用される可能性を警戒している。
 これらの国が恐れているのは、来るべきモノのインターネット(IoT)時代に懸念される外部からの遠隔制御により、自動車が乗っ取られ、情報窃取や走行中の突発的な運行停止など、公共の安全を脅かす事態が発生することである。電気バスにはインターネット接続システムやカメラ、マイク、衛星測位システム(GPS)などのセンサーが搭載されており、これらがバス運行に障害を引き起こし得る脆弱性として悪用される恐れがある。これは中国バスだけの問題ではなく、中国製電子装置を内蔵したあらゆる種類の車両や機器に共通する問題だと言われている。
 日本において問題なのは、官公庁、企業が中国製車両による違法なデータ収集への警戒心に乏しく、危機管理意識が決定的に欠如していることである。