米ウォールストリート・ジャーナルは、2026年8月6日、「米国の情報機関が、ロシアのプーチン大統領が今後数年以内にNATO(北大西洋条約機構)の結束を試すため、加盟国に限定的な攻撃を仕掛ける可能性がある」との分析をまとめたと報じた。
複数の米国政府当局者の話として、ロシアによるNATO加盟国への攻撃が早ければ2026年の秋から2029年までの間に行う可能性があるとする分析結果をまとめた。具体的には、NATO加盟国へのサイバー攻撃や武装集団による領土の占拠、NATO東部への限定的な地上侵攻などを想定している。地上侵攻については実際に行われる可能性は現時点では低いものの、時間の経過とともに高まるとも分析している。
米国情報機関はこれまで、ロシアとウクライナとの戦闘中は、NATO加盟国への攻撃はないと見ていたが、ウクライナ軍による攻撃でロシア軍や石油産業への被害が拡大し、プーチン大統領が追い詰められている現状を見ると、より危険な行動に出る可能性があると分析を変更したようだ。そしてロシアがNATOを攻撃する目的は、加盟国の結束を揺さぶることにあるとの見方を示している。
こうした中、ロシアは新たな情報機関の設置を進め、NATOに対する秘密工作を行っている徴候がある。
ロシアが秘密裏に新たな情報機関を設置
さらに米ウォールストリート・ジャーナルが報道したところによると、ロシアの情報機関に新たな秘密部隊が設置され、欧州などで欧米各国に対する秘密工作を展開していることが明らかとなった。この部隊は、情報機関のロシア軍参謀本部情報総局(GRU)とロシア連邦保安局(FSB)を再編した組織で、欧米の情報当局者らは「SSD」と呼んでいる。2024年夏、ドイツの武器メーカー・ラインメタル社(Rheinmetall)CEO アルミン・パッペルガーの暗殺計画に関与したほか、同年、DHL航空機への発火装置設置計画を画策した。この事件では、Artem K.というロシア系ドイツ人がドイツ連邦検察庁により2024年4月に逮捕された。計画では、欧州最大の物流企業で戦略物資の輸送を担うDHLの貨物航空機に発火装置を設置し、機体を炎上させる予定だった。この計画の目的は、「欧州の物流インフラの混乱」「ウクライナ向け軍事支援の供給ラインの妨害」「ドイツ国内で恐怖と不安を引き起こす心理戦(認知戦)」であったと言われる。
SSDはロシアの情報機関の複数の要素を統合した組織で、同国最大の情報機関である連邦保安庁(FSB)から一部の権限を引き継いだほか、2018年にロシアの二重スパイであるセルゲイ・スクリパリ氏の毒殺を英国で試みたとされる第29155部隊(GRU隷下の「対欧州破壊工作・暗殺専門部隊」「ハイブリッド戦の中核部隊」)もSSDが吸収している。
SSDは「国外での殺害と破壊工作の実行」「欧米企業や大学への潜入」「外国人工作員の勧誘と訓練」という少なくとも三つの広範な任務が課されており、ウクライナや発展途上国、そしてセルビアなどロシアに友好的とされる国から工作員の勧誘を図っているほか、ロシアの特殊部隊の一部を訓練する作戦センターも運営している。SSDの指揮はアンドレイ・ウラジミロビッチ・アベリヤノフGRU大将(第29155部隊司令官、セルゲイ・スクリパリ暗殺未遂(英国・2018)事件を指揮)と、その副官のイワン・セルゲビッチ・カシアネンコGRU中将(第29155部隊との連携責任者)の2人が担っている。アベリヤノフ氏が直接、作戦を指揮する役割であるのに対して、カシアネンコ氏は、作戦を立てて、欧州全体の作戦戦略を立案し、第29155部隊・サイバー部隊・偽情報部隊の統合などを役割としており、ドイツ・英国・チェコは彼を「国家安全保障上の最重要人物」として監視している。
カシアネンコ氏はセルゲイ・スクリパリ暗殺未遂事件以外でも、欧州での秘密工作を指揮しており、民間軍事会社ワグネルの創設者であるエフゲニー・プリゴジン氏(反乱未遂後、航空機事故死)が殺害された後は、同組織のアフリカでの作戦を引き継いでいる。
情報機関SSDが設置されたことについて、欧米の情報当局者は、ロシアが欧米に対して戦時体制を敷いていることを示していると見ている。部隊は2023年、欧米各国によるウクライナ支援を背景に設けられ、ここ数年間で最も大規模な秘密工作に関与してきたベテランらが所属しているという。
ロシアの攻撃に備えるNATO
最近、ポーランドの鉄道爆発(2025年11月、ロシアFSBの犯行か)、オランダの空軍基地などでの正体不明のドローン出現(同年、ロシアの影の船団から射出か)、スコットランド沖で領海侵犯を繰り返すロシアのスパイ船「ヤンタル」が英空軍の哨戒機にレーザー照射(同年)など欧州諸国を狙った事件が相次いで発生した。欧州当局は、不安定化を狙ったロシアの「ハイブリッド戦」の一環と睨んでいる。こうした中、欧州の中核であるドイツ、ポーランドは、現実的なロシアの脅威に備えて、急速に軍備を拡大している。
1 ドイツ
欧州の有力な軍事大国であるドイツは、2025年初めの「ドイツ軍を欧州で最強の通常戦力にする」というフリードリヒ・メルツ首相の約束に基づき、軍事改革を加速させている。2025年11月のCNNによると、ドイツ連立政府は兵力増強を目指し新たな徴兵法案を推進中である。法案は2011年に廃止された徴兵制を部分的に復活させ、2035年までに現役兵力を18万人から26万人に、予備軍を20万人規模に拡大する。ただし、限られた予算問題と、義務兵役制導入で若者層が極右・極左に分裂する可能性があるという政治的リスクが指摘されている。
2 ポーランド
NATO軍において、欧州内第3位の規模を誇るポーランドもロシアの脅威に積極的に対応している。ポーランド政府は全国民を対象に無料の週末軍事訓練プログラムを開始した。訓練には消火安全対応、防毒マスクの使用法、サバイバル術、基本的な戦闘技術などが含まれる。この計画は2027年までに40万人の民間人訓練を目指している。
また、ポーランド軍はウクライナ近隣の領空を守るための戦闘機を緊急配備し、レーダー探知、監視システム、地上防空部隊を「最高警戒態勢」に置いたとされる。ポーランドはすでに国内総生産(GDP)の4%以上を国防費に充て、欧州最高水準の軍事支出を続けている。