北方領土問題について一言

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 ロシアのプーチン大統領が8月13日、択捉島を訪問した。同氏が北方領土に足を踏み入れるのは初である。高市首相らが厳しい批判をした。これは当然のことだが、これで返還交渉が一歩でも動くということにはならない。
 プーチン氏は択捉の前にサハリンを訪問した際に、「日本は領有権を主張するが、第二次世界大戦の結果生じた現実として国際文書に明記されている」と改めて自国領との認識を示した。これはヤルタ協定やサンフランシスコ平和条約を指している。
 ヤルタ協定というのは、第二次世界大戦末期の1945年2月にクリミア半島のヤルタで行われた米英ソの三国首脳の秘密会談のことだ。ここでスターリンは、対日参戦の条件として日本の正当な領土である千島の引き渡しを要求し、米英がこれを認めてしまったのだ。これはソ連も承認していた、カイロ宣言や大西洋憲章に明記されている「領土不拡大」の原則を踏みにじるものであった。
 この内容は、サンフランシスコ条約が結ばれる際、アメリカによって持ち込まれ、同条約の第二条C項に(日本は千島列島に対する)「すべての権利、権原および請求権を放棄」することを明記されることになった。しかもソ連は、歯舞群島、色丹島は日本が放棄させられた千島ではなく、北海道の一部であるにもかかわらず千島列島と共に軍事占領し、ソ連に編入してしまったのだ。
 今、北方領土というと誰もが歯舞、色丹、国後、択捉の四島を頭に浮かべるはずだ。だが最初から「北方領土」と呼んでいたわけではない。政府は、国後、択捉は千島ではない、従って、サンフランシスコ条約で放棄した島ではないと言ってきた。
 だが、同条約締結当時、日本政府代表として会議に参加していた吉田茂首相は、歯舞、色丹は千島列島に含まれないと主張、同時に国後、択捉を「千島南部の二島」と述べている。当時の外務省西村条約局長も「千島列島の範囲については、北千島と南千島の両者を含む」と国会で答弁している。
 「国後、択捉は千島ではない」という主張は、世界に通用しないのだ。ただ千島であったとしても、日本が入っていないヤルタ秘密協定や「領土不拡大」の原則を踏みにじった千島や歯舞、色丹の占有に正当性はない。従って北方領土返還は、千島列島と歯舞、色丹を強奪したソ連とスターリンの誤り、戦後処理の不公正さを是正する戦いでもあるのだ。
 歯舞、色丹は国後、択捉とは、その性格が違う。サンフランシスコ条約を批准した国会審議でも西村条約局長は、「色丹島および歯舞島が北海道の一部である事実は連合国の絶対多数の承認を得ておるところ」と明確に答弁している。
 ただこの交渉は簡単ではない。これまで安倍内閣でも歯舞、色丹と国後、択捉を切り離した協議を相当進めてきた。切り離しは道理あるやり方の1つである。高市首相の「中長期的な関係回復を困難にした」という談話は意味深長だ。関係改善を困難にしているのはプーチンさんあんただよ、と言うことだ。結構!