米海軍大学の中国海洋研究所のピーター・ダットン所長は、中国のこの8月以来の動きをこう分析しているという。これはジャーナリストの古森義久氏が伝えているものである。
「最近の中国の動きは明らかに日本を尖閣諸島の領有権をめぐる日中2国間の協議へと引き出す狙いだろう」という。日本政府は「尖閣は日本固有の領土であり、領有権問題は存在しない」という立場を守っている。日本の施政権が及ぶ範囲ならば、日米安保条約の第5条が適用される。5条というのは日本の施政権下であれば米軍は自衛隊を助ける義務を負うというもので、オバマ大統領はこれまで何度も「尖閣は日本の施政権下にある」と念を押してきた。中国の狙いは尖閣を日中間の紛争に仕立てて、日本の施政権を危うくすれば、米軍は支援に出てこれなくなるというものだ。
ひとの領土を2国間の揉め事にして奪いやすくするために、尖閣周辺に“公船”を出動させて、揉め事を起そうというのである。だからこそ安倍政権は平和安全法制の成立を急いだ。断固として中国に対抗していれば、中国は米軍がいつ参加してくるかを懸念しなければならない。先日、米海軍がフィリピン沖に沈めた海底調査のための潜水機を中国がいきなり、かっ払う事件が起きた。5日後に米軍に返したが、米軍が本気で怒って奪還に出れば、今の中国海軍ならば米軍はひとひねりだろう。中国は米軍がどう出るかと試してみたのだろう。
平和安全法制は日本が領海危機に瀕しているからこそ成立が急がれたのに、野党の質問は「自衛隊が地球の裏側まで行くのか」などとトボケ過ぎていた。
日本最西端の与那国島には沿岸監視部隊の駐屯地を新設した。宮古島と石垣島の両市長は安保法制を認めて自衛隊の駐留を求めている。尖閣近辺の島々の人達は戦々恐々としているのである。
沖縄県の翁長雄志知事は前知事(仲井眞弘多氏)が出した辺野古沿岸部の埋め立て許可を取り消す裁判を起こしたが、最高裁判決によって明確に否定された。これに先立って福岡高裁那覇支部は「普天間飛行場の移転先として辺野古移設以外にない」との念入りの判決を出しているのである。
翁長知事は12月13日に発生したオスプレイ事故の後、米軍が6日後に再開したことに強く抗議している。沖縄ではオスプレイが特に危険な飛行機のように喧伝されているが、故障率は他のヘリや航空機と変わらない。しかも先日の事故は給油作業の失敗原因がはっきりしている。「事故原因がわかるまでに飛行禁止にというのは基地の活動を無力化する思惑としか思えない。あるいは中国支援の動きなのか。
外交と国防は国の専権事項であることは万国共通である。知事は米国にトランプ大統領が誕生したら、「基地撤去」を陳情に行くという。県民の半分は基地を受け入れる候補に投票した。唯我独尊の如き行動は沖縄県民だけでなく、日本の国全体を危うくすると知るべきだ。
(平成28年12月28日付静岡新聞『論壇』より転載)