トランプ大統領の経済政策と軍事方針
―二国間貿易協定締結と中国の膨張阻止―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 トランプ大統領が考えている経済政策と軍事方針の概要が現れてきた。経済政策の基本は主要国と二国間貿易協定を結ぶことで、軍事方針は“中国の膨張を許さず”の一点だ。
 安倍首相は10日にトランプ大統領と会談するが、その際、多国間貿易協定であるTPPを断念し、日米二国間の貿易協定を締結する決断をするだろう。貿易協定は多国間であれ二国間であれ効果、結果が出るには20年かかると言われてきた。安倍首相がTPPに拘(こだわ)ったのは中国を排除した貿易ルールを既成事実化して、中国を国際ルール作りに関わらせない。また知的財産を守るなどの狙いがあった。
 トランプ大統領はこの多国間貿易協定に反対し、日米との二国間貿易協定を進めようとしている。NAFTA(北米自由貿易協定)はカナダ、米国、メキシコを貫く壮大な地域の自由貿易の実験だった。その結果は米国だけが貿易赤字を背負い込み、当初見込んだメキシコの急速な経済成長も実現されなかった。メキシコの労賃は米国の6分の1と言われており、そこで造った自動車や機械が関税無しで米国内に持ち込まれた。この結果、米国の製造業が潰れた。かといってメキシコの国内が潤ったわけではない。
 米国の対中貿易赤字は15年、3700億ドル(ストックホルム国際平和研究所)で、中国の軍事費は2200億ドル。この軍事費は01年300億ドルから米国の貿易赤字と並行して伸びてきた。中国共産党の意図は人民元を管理し国際通貨に仕立て、それを武器にアジア全体に一帯一路を仕掛け、自国の影響下に置こうとするものだ。習政権は辺りを憚ることなく覇権を拡大しようとしている。
 歴代自民党政権は中国をなだめようとしてきたが、中華思想は「世界はオレのもの」と考える思想だから、軍事力以外にとどめることができない。安倍首相は究極には軍事力で抑止するしかないと考えており、それには日米同盟の強化と軍事技術の向上以外にない。
 歴代、米国大統領も外交によって中国の膨張をとどめ得ると考えてきた。オバマ大統領などは「太平洋を半分ずつ分けよう」と言われるほど中国に舐められた。トランプ大統領は米大統領で初めて“中国”とはどういう国なのかを理解した大統領だ。国務長官と国防長官の人事がトランプ氏の意中を語る。中国を助ける可能性があるのはロシアだが、対ロシア外交の転換によって中国の孤立化を図るだろう。実は安倍首相が米欧のロシア制裁に同調しつつ、ロシアとの平和条約交渉を図ろうとしているのも対中政策の一環だ。考え方に共通のものがある。
 トランプ氏は台湾の蔡英文総統の電話を受ける一方、中国の文句に対しては「一つの中国」の原則を否定しかねない対応をして中国を怒らせた。国務省は「南シナ海の岩礁基地は使わせない」という断固とした決意を示している。中国を国際ルールに従わせるにはトランプ氏ほどの強力が必要なのだろう。
(平成29年2月2日付静岡新聞『論壇』より転載)