「新たな日米信頼関係の実現」
―従来の中国観から目を覚ますことが国際社会の安寧を招く―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 実業の世界しか知らなかったドナルド・トランプ米大統領が政治の世界をどう操ろうとしているかの手段が漸く分かってきた。
 その典型例はマティス国防長官の抜擢だろう。同氏は将軍中の将軍と言われ、その度胸、博識には並ぶ者がいない。古今の外交史、戦略史など7000冊をマスターしていると言われている。マティス氏は政権発足直後の2月初頭に来日し、稲田朋美防衛相との間で日米共同声明を発した。同時に岸田文雄外相とレックス・ティラーソン国務長官との間でも同様の共同声明が出された。特異なのは首脳会談でも改めて「米国は核と通常戦の双方で日本の防衛に関与」と念を押していることだ。2+2の共同声明に加えて首脳会談でも念を押すというのは、中国に対する究極的圧力に他ならない。
 日経新聞の特ダネのようだが、マティス訪日時に、マティス氏が「明王朝」の時代に遡って対中観を披露し、中国への懸念を明らかにしたというのだ。その主旨はこうだ。(2月8日付、日経デジタル)
 「いまの中国は明王朝の冊封体制を復活させようとしているかのようだ。周辺を全て自分の勢力圏にするつもりなのかも知れない。だが現代の世界では、そんなことは絶対に通用しない。米国は南シナ海でこれまでのような寛容な態度はとらない。航行の自由を守るために行動する。」
 冊封体制というのは古来、中国が周辺国を朝貢国にする手口で、結局は属国にしてしまう。607年、日本の聖徳太子が隋に使者を遣わして「日出ずる国の天子、日没する国の天子に書をいたす。つつがなきや」との書を渡した故事がある。これは聖徳太子に先立つこと何百年にもわたって、中国が冊封国家になれと誘い込んだ末の日本の返答である。絶縁状でもないが「達者で暮らせよ」というほどの意味だろう。
 マティス氏の軍事史的警告は新しい“聖徳太子”の時代の再来と見て間違いないだろう。
 中国のこの“中華”思想を知らないキッシンジャー氏などは中国と五分の取引ができると信じていたようだ。クリントン大統領も誠に不用心に中国と付き合い、クリントン財団などは中国マネーで溢れかえっていると言われた。オバマ大統領は「太平洋を二分しよう」などとナメられていた。日本の自民党宏池会などは未だに頭を下げれば中国と取引できると思い込んでいる。
 安倍訪米に当たって国防省筋は「安倍氏の中国説明は極めて有益だった」と述べている。
 トランプ氏は初対面の日以来、安倍氏を外交ブレーンの一人と見ていたかのようだ。そうでなければいきなり2日間の招待はあり得ない。今回の訪米はトランプ氏にとって勉強の一つ。事前に騒がれた円安、貿易黒字の問題、車問題などについて具体論は全く出てこなかった。多国間貿易は均衡が破れたあとの修復が困難とトランプ氏は考えている。壊れたバランスをどう戻すのか。その具体論は「専門家がやってくれ」と考えているのではないか。
 (平成29年2月15日付静岡新聞『論壇』より転載)