安倍晋三首相が5月3日の憲法記念日を機に「憲法9条の改正」を真っ正面から打ち出してきた。憲法改正を主要テーマとした安倍氏が首相に就任してから早くも4年半。党内や野党各党の議論が絡み合って、改正の焦点がボヤケつつあった。
安倍首相が就任直後に持ち出したのが96条の改正。これは衆参両院のそれぞれ3分の2の議員で改正を「発議」するのをそれぞれ2分の1に改めるもの。時勢に合った憲法に改正し易くすべきとの言い分だったが、旧民主党首脳は「9条改正を狙ったもの」と見做して総攻撃した。果ては安倍内閣での憲法改正は認めないという。どんな政権であれ、政権をとったこと自体が民意の表現である。特に「安倍内閣」と名指しで反対するのは暴論というものだろう。決めるのは国会だ。
国際情勢は憲法改正が必要な事態に流れつつある。安倍首相は取り敢えず、日米関係の再構築と新安保法の制定を断行したが、これで国際情勢の悪化に歯止めがかかったわけではない。しかし民進党、共産党は相変わらず憲法改正反対に固執している。自民党は緊急事態対処を盛り込めという。一方で維新は高等教育の無償化、地方分権をやれと、改正の目標が散漫になってきた。
安倍氏は議会に設けた憲法審議会での審議を深めろと言っているが、民進党はその陰に隠れて審議をサボる思惑だ。反面で前原誠司元外相や細野豪志氏らは積極的改正論を唱え始めた。また維新の顧問格の橋下徹氏は「9条改正、結構ではないか」と安倍氏を援護している。公明党も「9条」の1項、2項に手を加えない「加憲」なら反対しないと態度を軟化してきた。1項は戦争放棄、2項は戦力の不保持である。安倍提案はこの9条に3項目を加えて「自衛隊を条文に書き込む」というものだ。平和主義の理念を残して自衛隊をオーソライズするということだろう。
民・共両党の考え方は、憲法は理想を掲げているのだから、現実を憲法に近付けるべきだという考え方だ。しかし現実に恐ろしい状態が存在するのだから、いま、自衛隊は必要だ。共産党は要らなくなったら解体すると、辻褄を合わせる。自衛隊の必要性を認める以上、憲法改正が不可欠だと考えるのが常識だろう。ところが学者や芸能人に憲法改正反対論者がやたらに多いのは、インテリを気取っているからなのか。
「9条改正」を持ち出した安倍内閣の支持率が依然として60%近い水準を維持しているのは何故なのか。草の根の人達が支持しているとすれば、この内閣はなお続くということだろう。
安倍総裁の2期目の任期は18年9月まで。3選すれば21年9月までということになる。安倍氏は「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」という。首相は18年秋に総選挙をするつもりのようだが、その選挙で民進党が崩れ、維新が浮上すると見ているようだ。憲法改正はそのあとの国会で浮上する。
(平成29年5月10日付静岡新聞『論壇』より転載)