“加計学園問題”についての前川喜平前文科省事務次官や民進党の言い分を聞いていると、この人達は“天下り問題”についての認識がつくづく薄いのではないかと思う。文科省は前川氏まで3代の事務次官が37人の天下りの責任を追及されて処分されており、その後の追加処分を合わせると計62件に及ぶ。その中には文科省の高等教育局長を経て、早稲田大学の教授になった天下りがいる。学問的業績もないのに早稲田大学が一局長を教授に迎え入れたのは何故か。文科省は莫大な私学助成金を配分する権限を持っており、天下りを一人受けることで大学は助成金を確保できる。総じて天下りというのは阿吽の呼吸で双方に利益をもたらす。
直接的に分かり易いので、製薬業界と厚労省の天下りの関係を見る。
薬品の価格や、医療費は厚労省のサジ加減ひとつで決まる。医療機関はよく倒産するが、医薬品会社が潰れたという話は聞かない。これは天下りが製薬会社に多い証拠だ。
2009年、長妻昭厚労大臣(現民進党)は、厚労省関係の天下りについて委員会でこう答えている。
「厚労省単独で所感している法人数は264.このうち常勤のOBは320人、非常勤が936人です。」
当時、民間製薬会社への天下りは武田薬品工業が筆頭というのが常識だった。この天下りを食べさせるのに医療費は抑制されても薬価は高止まりのまま。武田は医療費が下がっても利益は必ず前年比増という不思議な現象を続けていた。エイズ発症の責任を問われたミドリ十字は潰れるかと思いきや、外資系に買われてなお意気軒高だ。
文科省や厚労省にかかわらず、役所と業界の結びつきは両方が得する関係だから「自粛せよ」などといった通達だけで全く効き目がない。
30年ほど前、ジュネーブでガット(WTO)の自由化を巡って会議があったが、代表の通産省(現経産省)の役人が「この話は農水省のOKがとれないからサインできない」と言って会議を壊した。つまらない球根の自由化だったが所管の農水省の課長が「ウン」と言わないという。各国代表が現場の裁量で次々決めているのに、日本は課長一人で国際会議を蹴飛ばさせたのだ。
前川前次官の「行政を曲げた」との口上を聞きながら、官僚優位の時代の遺物だと痛感した。かつての農水省の課長並みのレベルだ。
安倍晋三氏はこういう岩盤規制をぶち壊す手段として「国家戦略特区」方式を編み出した。全国的な規制を緩めたり、改革するのは大変だから「特区」に限って例外的に許可する方式だ。これに応じたのが加計学院が経営する岡山理科大学の獣医学部である。今治市と愛媛県が「特区」を申請し、15年末に設立したいと願い出ていた。
「特区」に招致が決まったとは言え、最後は大学の定数を握る文科省がOKを出さないと獣医学部はスタートできない。文科省は52年ぶりの定数増に抵抗しているが、愛媛県も今治市も獣医師不足だと言っている。
(2017年6月14日付静岡新聞『論壇』より転載)