政界の潮目が変わりつつある。これまで政界は保守の自民党に対して、中道・左派が一体となって勢力のバランスを保っていた。最近、衆・参両選挙で安倍自民党が4連勝したことを勘案すると、全体が右傾化してきたと言えるが、最近の特徴は中道と左派の一体化が崩れつつある感がある。顕著なのは民進党の中の中道化、保守化への変化だろう。
蓮舫氏が代表になった際は、岡田克也氏や枝野幸男氏が応援していた。岡田氏の主張は「安倍政権下では改憲しない」というものだった。「改憲」は最大の政治課題であって、誰の時は「イヤだ」というのは赤子の理屈である。その極論に反発したのか、最近の民進党内の世論は「改憲を真面目に考えよう」とのムードに変わってきた。9月1日に新代表が選出される予定だが、今のところ前原誠司氏が有力だと言われている。前原氏は憲法の「9条改正」に賛成の立場を鮮明にしている。前原氏に対抗して出馬する枝野氏を応援するのは旧社会、旧社民系の赤松広隆衆院副議長のみだ。代表選では地方議員、党員、サポーター、公認候補予定者も投票権を与えられる。議員では岡田克也前代表や菅直人・元首相らが枝野支持を表明しているものの、投票数では少ないのではないか。
共産党は民進党と組んでこそ大きな塊となって政界を動かせるが、民進党の代表が前原氏となれば「民共共闘」の戦術は不可能となる。前原氏の向かうところは“新保守”と呼ばれる領域だろう。
新保守に向かう勢力が各地で勃興しつつある。その走りは橋下徹氏が興した大阪維新の会だ。日本維新の会代表の松井一郎・大阪府知事は元自民党議員だったが、橋下氏と組んで維新を設立し“大阪改革”に立ち上がった。小池百合子・東京都知事は「都民ファースト」を結成して都議会の第一党を占めた。今その都民ファーストは若狭勝・衆院議員を頭とし、国政を目指した「日本ファースト」の設立を発表した。橋本氏と小池氏とは奇しくも同じ発想に立って大阪府、東京都の議員の粛正に取り掛かり、成功しているのである。
若狭氏は民進党を離党した細野豪志氏と11日、会談した。既成の観念を捨てた新しい保守を互いに模索しているように見える。政界全体が大きく右に振れているのである。
国政に目を転じれば、自民党は古き自民党の体質を残す“2回世問題”などで屋台が揺れている。安倍氏の次に親中派の宏池会をバックにした岸田文雄氏で大丈夫かという雰囲気もある。
以上の地殻変動を必死で食い止めようと動いているのが、最近の朝日新聞、毎日新聞といったマスメディアではないか。正直言って「加計問題」も「日報問題」もそれが「悪い事だ」とはとても思えない。加計問題は単なる許認可権の問題だ。獣医師の定員が52年も動かない方が狂っている。日報は自衛隊内の報告事項だ。次の総選挙では新しい装いの新保守党が浮上してくるだろう。
(平成29年8月16日付静岡新聞『論壇』より転載)