「核・ミサイル開発をやめよ」とトランプ大統領は北朝鮮を真剣に脅かしている。「軍事力を使うな」とトランプ大統領にブレーキをかけていたのがバノン首席戦略官兼上級顧問だった。トランプ氏に「米国優先」の旗を振らせたのもバノン氏だった。そのバノン氏が解任されて、米朝関係は一体どうなるのか。この一触即発の米朝危機に、同盟国である日本、韓国は心を合わせて協力するのが筋だ。特に韓国は北朝鮮軍に中国軍が加勢して、国土を蹂躙された歴史がある。その再現を抑止することこそ、文在寅大統領の責務だろう。
ところが、この大統領は自分が仲介して米国と北朝鮮を対話させると言う。米国も北朝鮮もその提案を一蹴した。かつて盧武鉉大統領も米、中の仲介を申し出たことがあるが、両国から相手にもされなかった。仲介役は自分が手を出せば戦況を左右するほどの実力がなければ口を出す意味も権利もない。朝鮮半島は日本が併合するまで、500年間、中国の属国だったことを考えれば、地政学的にもこの国が“仲介役”を果たせるわけがない。
文大統領は「慰安婦合意問題について、まだ韓国民が納得していない」と言ったほか、合併時代の徴用工問題を蒸し返し、「個人の請求権はなお消滅していない」と主張している。
この問題については05年、盧武鉉政権下でも持ち出され、日韓両国政府は、日本が65年に支払った5億ドルの「経済協力資金」と名付けた賠償金で片がついていると確認した。したがって賠償金を支払うとすれば、「韓国政府の側の責任である」とも確認されている。当時大統領秘書官だった文氏も承知のはずだ。ところが韓国では最高裁(大法院)が12年「徴用工の請求権は今も効力がある」との判断を示した。政府同士の合意を片方の最高裁が覆すというのは、近代国家にあるまじき姿である。慰安婦問題も「日韓基本条約時に議論されなかった」といって後日、持ち出されたものである。戦中も戦後も慰安婦は公認の職業であり、無償で働かされたわけではないから、「議題にされなかった」のは不思議ではない。44年に日本軍が撤収した陣地の慰安婦について、米軍が聴取した資料が存在するが、彼女らの収入は米軍基地の司令官以上だったという。
その慰安婦について日本は何度もカゲで支払ってきたが、安倍首相は朴槿恵大統領との間で10億円を支払って「不可逆的解決とする」合意をとった。これだけやれば揉め事は一件落着となるはずだが、韓国内では相変わらず全国に慰安婦像を展示する運動が続いている。アメリカやオーストラリアへの移住韓国人も呼応して、各地に慰安婦像を立てつつある。
こういう神経は日本人には全く不可解だが、中華思想から見ると分かり易い。中華思想では一番偉い人種が中国、次が朝鮮、日本は三番目以下の「東夷」であるという。東夷の悪行を示して中国、朝鮮の優位を示したいのだ。日本は中国、朝鮮に謝り続ければ解決すると思っていたようだが、これは日本外交の大失敗だ。
(平成29年8月23日付静岡新聞『論壇』より転載)