日本の介護施設における人材不足が言われて久しい。これから高齢化がますます進む中で、介護人材の不足は大きな社会問題になりつつある。厚生労働省も介護報酬の引き上げや介護経験者の職場復帰奨励などいろいろと知恵を絞っているようだが、人材確保に向けた有効な手立て、決め手は見えていない。
そうした中で注目されるのは、今年の11月以降、技能実習制度において「介護」の職種が追加され、EPA(経済連携協定)による介護人材の受け入れを補完する体制が整う見通しになっていることである。EPAの下では、インドネシア、フィリピン及びベトナムからの若者が看護・介護の研修を受けており、すでに国家試験に合格して病院や介護施設で働いている者もいるが、何分絶対数が少ない。
EPAに比べると技能実習制度の場合は間口が格段に広い。昨年末時点で日本に来ている技能実習生は中国人、ベトナム人を中心に22万人を超えており、製造業、農業、建設業などの現場で技能実習生を見かけることは今や日常的な風景になっている。特に、ベトナム人の場合は、ここ5年間で8倍に増え、今年は10万人の大台に乗るのではないかと予想されている。介護の分野でも11月の「解禁」に向けて既にベトナム人材の獲得競争が熾烈になっている。
とは言え、日本の介護現場に外国人実習生を迎えるには乗り越えるべきハードルも高く、数年で急増するという訳にはいかないだろう。介護教育・実務の経験や日本語習得などの受け入れ要件は厳しく、送り出し機関や日本の監理団体に関する認定要件も容易にはクリアできない。また、介護施設側も「安い労働力」という観点から技能実習生の採用を考えるとすればそれは見込み違いになる。日本語学習や実習へのサポートも考慮すれば負担はむしろ大きくなるかも知れない。
先日、私は、ベトナムの大手送り出し機関の責任者と1時間ほど面談する機会があったが、実習候補生の全員が医療短期大学・専門学校の卒業生に限定されており、日本での受け入れ先が決まる前に3ヵ月、決まった後から実際に日本に向けて出発するまでに更に7ヵ月の事前教育を受ける仕組みになっているとのことであった。介護の事前指導では日本人の介護師やEPAで訪日したベトナム人の1~2期生を指導者・教育係に採用しており、日本の介護現場の特殊性も学べるようなシステムが構築されている。
興味深かったのは訪日前に「3K教育」を徹底させるとの話で、「きつい、きたない、危険」の3Kではなく、「感謝、感激、感動」の3Kで、「日本人の心を持って対応する」との教育方針を貫いていることである。私は、ベトナム在勤当時から、老人を敬う文化や手先が器用で忍耐強い国民性、そして日本人に似た宗教観を持っていることなどからベトナム人は日本での介護職に適性を有していると思っていたが、技能実習制度の下でこれが実現すれば嬉しい限りである。
総じてベトナム人は日本に憧れを有しており、親日度は極めて高い。去年だけでベトナムは13万人弱の労働者を海外に派遣したが、その3割が日本に来ている。台湾が相変わらず派遣先の第1位だが、それは受け入れ条件が日本ほど厳しくなく、しかも最長で12年間(日本は最近3年から5年に延長された)在留可能であることが大きな誘因になっている。所得レベルも日本と台湾でほとんど差がない。ただ、最近では台湾の在留可能期間が長いことが逆に台湾への出稼ぎを躊躇させる一因になりつつあるようである。介護の分野で働く若いベトナム女性の場合、滞在中に台湾人男性と結婚してベトナムに戻らないケースが増えており、ベトナム側の両親・家族がこれを嫌っているというのである。また、先日、台湾でベトナムの若者(窃盗犯)が地元警察に射殺されるという事件が発生した(現在もベトナム人出稼ぎ者による抗議デモが続いている)ように、生活環境にも問題がある。
勿論、日本でもベトナム人の在留者(昨年末で約20万人)が増える中で犯罪絡みの事案も頻繁に耳にするようになった。ベトナム人の少女(小学生)が日本人の男に殺されたり、不法滞在のベトナム青年が警察の職務質問中に逃亡してニュースになったりしている。私としては、ベトナムの若者が技能実習制度の下でしっかりと技能を習得し、数年後にはベトナムに帰国して習得した技能をベトナムの発展のために大いに活かしてほしいと願うばかりである。