「すっきりとした三極での選挙戦」
―保守派二大政党への兆し―

.

会長・政治評論家 屋山太郎

 総選挙の最大の争点が憲法問題であることはまぎれもない。改正の焦点が9条に当たっていることも誰も否定はできないだろう。政界が一強多弱の状態ではよくない。従って全野党が一致して一強を倒すべきだという考え方が、共産党を中心に広がってきた。
 代わってどのような政府をつくるかという具体論がなく、権力を倒せばよいという考え方は革命思想である。かつて民主党は党内に非武装派、日米安保反対派、賛成派を抱えて政権をとった。自民党の政治腐敗が酷く、民心が離れて新しい政府を選んだからである。総選挙で民主党はなんと308議席を占めたが、この数字は日本政界の最高数値として永久に残るだろう。その民主党政権がわずか3年3ヵ月で瓦解したのは、内に抱える安全保障観の違いだった。安保問題こそ政権の中枢の課題なのである。
 民主党はその中枢の課題に目を閉じたまま再起を図ろうとしたが、分裂して民進党となった。野党最大の民進党は一向に伸びなかった。安倍内閣が「モリ・カケ」問題を抱えて支持率が10%も落ちているのに、その分を民進党が拾えなかったのは何故なのか。
 「モリ・カケ」は政治の本質問題ではない。政権を変えなければならない問題ではないと国民が判断しているからだ。目下の急務は北朝鮮問題にどう対応すべきかだろう。民進党の前原誠司代表が「ひとケタしかない支持率のままでは党が潰れる。全員『希望の党』の公認で戦う」と決め、議員総会で了承された。全員が泥舟に乗っているとの自覚があったからだろう。希望の党の党首・小池百合子東京都知事は ①憲法改正 ②新安保法を認めること――を、公認の条件にした。世にいう排除の論理だが、前原代表がそれを暗黙に認めたのは、民進党をすっきりした保守の党に生れ変わらせるには、これしかないと思ったのだろう。前原氏は以前、「民進党は解党するしかない」と述べたことがある。保守派と容共派が同居している限り矛盾は解消せず、政権をとっても民主党の二の舞になるのは明らかだった。排除された派が「立憲民主党」を結成した結果、民進党の病巣は摘出された。
 希望の党が首班指名で誰を推すのかなど不可解な部分はあるが、政界はすっきりとした三極に再編された。
 1つは保守派の自民・公明。2つ目は希望とこれと選挙協力した維新。3つ目が新しく誕生した立憲民主党と共産党・社会党だ。
 小選挙区制度は二大政党を指向するから、今後、何回かの選挙を重ねると保守派の二大政党が争う姿になるだろう。
 北朝鮮の脅威を前に岡田克也氏や枝野幸男氏は「安倍氏が首相をやっている間は、憲法の議論はしない」と言う。国家の一大事に当たって、これで政治家の資格があるのか。強盗が来たら家族を置いて真っ先に逃げ出すオヤジがいるのか。せめて家には最高のカギをつけることを考えて貰いたい。
(平成29年10月18日付静岡新聞『論壇』より転載)