衆院選挙は自民党が前回の284議席と同数を獲得した。定数が前回より10議席減っていることを考慮すれば大勝である。これで安倍晋三政権は参院も含めて国政選挙に5連勝したことになる。一強多弱と言われる政界地図は今回も変わらなかった。何故変わらないのか。その理由ははっきりしている。自民党を一挙に脅かす政党を作ろうとして小池百合子氏が全員当選すれば政権獲得できる数を立候補させたが、茶番に終わった。この一連の騒ぎの中で見えてきた構図がある。
これまで野党が自民党を脅かす存在にまで成長できなかったのは新進党であれ、民主党であれ、民進党であれ、体内に反体制派を抱えていたからだ。党内の半分に憲法改正反対派がいれば、党全体として憲法改正賛成には踏み切れない。集団的自衛権の行使や新安保法に賛成の勢力が埋もれてしまって、選挙の結果に出てこない。今回、小池氏が「希望」への入党に当たって「改憲反対派は排除する」と宣言した結果、民進党は分裂した。今後は立憲民主党が音頭をとって改憲反対派をまとめていくのだろう。一方で希望は敗れたとは言え50議席を確保した。
政界の比重は改憲の側に傾いた感があるが、自民党に対抗する勢力として成長するのか。或いは希望・維新が成長していくのか。
安倍一強の状態がよくないと見る人は多いが、安倍氏の個人的責任では全くない。今回勝った真因は明らかだ。
北朝鮮と米国が一触即発の状況にあるが、それ以前から安倍首相は集団的自衛権行使容認、秘密保護法、新安保法と防衛に関わる諸課題を具体化してきた。ミサイルを撃ち込まれたら迎撃するミサイルを備えるに至ったが、価格は攻撃ミサイルの40倍もするという。
北のミサイルの攻撃能力を無くしてもらいたいという思いは米国と同じだ。
こういう中で行われた総選挙で、主要課題は「モリ・カケ問題」だという野党の発想と議論には驚いた。2017年度の日本新聞協会賞のニュース部門にはNHKの「防衛省『日報』保管も公表せず」が選ばれた。本命視された朝日新聞の「森友学園への国有地売却、加計学園の獣医学部設置を巡る一連の報道」は落選した。森友学園問題は一私立学校の問題で、既に裁判沙汰になっている問題。加計学園問題は、獣医師会の定員の権限を握る文科省と同医師会の癒着の問題に他ならない。こういう“岩盤規制”を破って構造改革を進めるのが時代の要請だ。52年間も獣医師の定員が変わらず、加戸元愛媛県知事は防疫体制づくりに支障があったと証言しているのである。こういう偏った報道に新聞協会賞を与えるとすれば、見当違いも甚だしい。偏った認識に基づいて過大に報道するのはキャンペーンであって、朝日新聞はその失敗を慰安婦問題で学んだはずだ。素人の創作を基に慰安婦問題を国際問題化し、韓国の歴史認識をも捻じ曲げた。今回の一連の選挙報道も全く同類だ。
(平成29年10月25日付静岡新聞『論壇』より転載)