「トランプ大統領のアジア歴訪の成果」
―日米の対中外交戦略の一致―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 トランプ米大統領のアジア訪問の最大の成果は、日米の外交戦略を一致させ、「自由で開かれたインド太平洋戦略」と呼ぶことになったことだろう。もともとこの言葉は07年の第1次安倍政権時代、安倍氏がインド訪問の時に使った言葉だった。
 日本が中東の原油をインド洋と太平洋を経由して運んでいることを意識して用いたようだ。他に安倍氏は多角的に外交を展開するという意味で「地球儀を俯瞰する外交」とか、自由と民主主義を尊重する「価値観外交」という言葉を使っている。
 安倍氏の意中に中国が重く存在していたことは間違いないが、敢えて中国を刺激すると米、欧の反発を招きかねないとの恐れがあった。しかし現在、中国はさながら、世界の震源地のようだ。北朝鮮の核、ミサイルを処理しようとすれば、カギは中国のみが握っている有様だ。習近平体制は立派な独裁大国として世界に君臨しようとしている。これまでの米国は、オバマ大統領の時代を含めて、中国を“普通の大国”として認識してきた。トランプ氏の娘婿クシュナー上席顧問やキッシンジャー氏は中国の特殊性をまだ認識していないようだ。
 中国はあくまでも自らが絶対的権力を持つ「中華の国」であり、朝鮮半島は南北とも中国の属国であるという認識は変わらない。米国は米韓条約を結んでいるのだから韓国は自分の味方と信じ込んでいるが、THAADを巡る中韓のやり取りを見れば、韓国が米国の同盟国とは言えないだろう。
 中国の膨張政策はとどまるところを知らない。米中首脳会談で習主席は「太平洋は中、米の2国で分ける十分な広さがある」と相変わらず太平洋への野心を隠さなかった。これを聞いて河野太郎外相は「中国は太平洋に接していない」と吐き捨てた。
 インドのモディ首相は中国の一帯一路計画を眺めつつ、対日接近度を強めている。安倍氏の名付けた「インド太平洋戦略」が現実味を帯びており、日米豪印の連携が一気に進む気配を見せている。英国も「航行の自由」を大義に自衛隊との共同訓練を計画しているという。
 このインド太平洋戦略の要は台湾だろう。中国は既に周辺の暗礁を埋め立て軍事基地化している。台湾が香港のように一国二制度などというまやかしに乗ったら、即日お終いである。香港は太平洋への入り口にならないが、台湾は立派な玄関口だからだ。
 日米印豪という中国封じ込めを考える際、最重要ポイントが台湾にあることを常に念頭に置いておかねばならない。台湾は中国に国連加入と共にあらかたの国連機関から締め出されたが、国際的な地位を固めるために、各国際機関への加入を進める運動を始めるべきではないか。
 米国の中国認識はまともな方向に変わりつつある。中国、朝鮮半島が世界で特殊な国であることを繰り返し認識させる必要がある。
(平成29年11月15日付静岡新聞『論壇』より転載)