激変する日本の外国人留学生風景
―残念なベトナム人留学生の風景―

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

 つい7~8年前まで日本における外国人留学生といえばトップ3が中国人、韓国人、台湾人と相場が決まっていた。ところが、ここ数年、こうした序列に大きな変化が見られる。中国人留学生が相変わらず最も多い状況は不変だが、2番目はベトナム人、3番目はネパール人に変わっている。トップ10を見れば、スリランカ、インドネシア及びミャンマーからの留学生も入ってくる。いったいこの背景は何なのか。
 最近、法務省が発表した在留外国人統計によれば、2017年6月末の時点で、「留学」の在留資格で日本に滞在する外国人の数は29万人を超えている。このうち、中国人は約11.5万人で、全体の約40%を占める。この数は5年前と比較するとほぼ同数で、年ごとの変化はあまり大きくはない。ところが、ベトナムからの留学生数は同じ5年間に8811人から69565人へと7.9倍も増えている。この間の留学生総数の増加は+61%だから、いかにベトナム人留学生の数が激増しているかがわかる。同様な現象は、スリランカ人(7.1倍)、ネパール人(5.2倍)、ミャンマー人(3.1倍)にもみられる。
 先日、NHKテレビの「クローズアップ現代」がベトナム人留学生と犯罪のかかわりの問題を特集していた。この番組が特に着目していたのは日本人学校に通うベトナム人学生が著増している事実と、彼らの多くが日本語学習はそっちのけでアルバイトに精を出す姿である。キーワードは「日本語学校」と「アルバイト」、そして「出稼ぎ」。つまり、日本へのベトナム人留学生増の背景は「出稼ぎが主目的」という訳で、これと併行する形で、彼らによる犯罪(大半が万引きなどの窃盗犯)も増えているという。日本留学前に多額の借金をし、その返済のために日本滞在期間を通してアルバイトに精を出さざるを得ないこと、しかも返済が滞れば債権者に脅迫されて万引きなどの犯罪に手を染める事例も多いようだと解説されていた。
 この番組の言わんとするところに私もおおむね同感なのだが、1つだけ違和感を禁じえなかったのは、これらのベトナム人留学生をもっぱら「犠牲者」として描いていた点である。確かに、送り出し側と受け手側に悪徳業者が介在して、留学生を不当に搾取する実態はある。しかし、当の留学生側も最初から日本語習得を主目的に訪日する意図が希薄で、彼ら自身が出稼ぎ感覚で訪日していることに問題の根源があるのではないか。多額の借金を返済するために「週28時間以内」とされるアルバイト時間制限を破って働かざるを得ないというが、そうした事情がなくても「働けるだけ働いて稼ぎまくる」という訪日動機を持つ者も少なくないのではないか。
 また、国費留学生や裕福な家庭の出身者でもアルバイトに精を出す留学生はいる。日本語学校ではなく通常の四年制大学の学部や大学院に通うベトナム人留学生の場合も、大半が何らかのアルバイトをしている。それは日本人学生の場合とさして変わるところがない。しいて日本人との違いを言えば、国籍や日本語能力の問題からバイト職種が限定されることと、時間給の安い仕事に求人が集中する傾向があることであろう。留学生側に職種を選別し、本業であるはずの勉強に悪影響が出ない範囲でアルバイトをするという意識がない限り、問題はいつまでも解決されない
 最後に残されるのは送り出し側及び受け手側における悪徳仲介業者の排除の問題である。これは安い労働力を求める日本の企業側の事情(つまり「需要」の問題)も考慮に入れる必要がある。日本語学校も儲け主義一辺倒でなく、成績不振者は退学させるような覚悟が要る。先述のNHK番組の中で、日本語学校の終業時刻に合わせて何台もの大型バスが学校前に待機し、授業を終えたばかりの学生をバイト先に集団移送する光景が映し出されていたが、これは異様な状況である。学校とバイト先が「結託」しているような姿に驚かざるを得ない。政府はベトナム当局と協議し、出稼ぎ目的の留学や悪徳な業者・学校を排除する方策を真剣に検討しなければならない。ネパール、スリランカなどの場合も同様である。そうでなければ、文科省の言う「留学生30万人」の目標を数の上だけで達成しても何の意味もない。