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政策提言委員・軍事/情報戦略研究所長
西村金一
【実験状況】
朝鮮中央通信によると、北朝鮮は1月6日12時(日本時間午後12時半)に、朝鮮人民軍最高司令官でもある金正恩第1書記の命令により「初めての水爆実験に成功した」と発表した。各国も、北東部にある豊渓里(プンゲリ)核実験場周辺でマグニチュード5.1の揺れを確認した。
これは、北朝鮮の4度目の核実験である。これまでの実験結果は、以下の通りである。
1回目 : 2006年10月、1キロトン以下
2回目 : 2009年5月、3~4キロトン
3回目 : 2013年2月、6~7キロトン M5.1
4回目(今回): 2016年1月6日、M4.9~5.1
【今回の実験をどうみるか】
①今のところ裏付ける情報は少ないが、北朝鮮が主張する「水爆実験」か、威力を高めた「ブースト型核分離爆弾」であろう。今回の爆発の威力がマグニチュード4.9~5.1であり前回と同じ規模であること、水素爆弾であれば前回の数百倍の規模でなければならないことからすると、ブースト型核爆弾と評価すべきだ。
②どちらかであっても、北朝鮮の核兵器能力が一段と向上したといえる。
【実験は、どんな意味があるのか】
北朝鮮の核兵器の脅威が高まった。
現在、今回の実験に成功したとされる核兵器を弾道ミサイルで運搬できるのか。明確にはわからないが、韓国国防省などによると搭載できるという情報もある。将来は、今回の核兵器を弾道ミサイルに搭載して米国まで届かせることができるのかかが焦点となる。
【今後どうなるのか】
ポイントは二つある。
一つは、その核兵器を弾道ミサイルに搭載できるのか。米国まで届かせることができるのか。
二つは、中朝関係や北と米韓日関係は。圧力を強めるのか、話し合いを行うのか。
<米国まで運搬できるのか>
KN-08という弾道ミサイルで運搬できる可能性はある。だが、米国まで運搬できるのかということについて、現在のところその能力はない。だが、東倉里(トンチャンリ)弾道ミサイル発射実験場の改修(これまで以上の大型弾道ミサイルが発射できる)が、昨年7月に完了した。具体的には高さ50mから67mに改修した。つまり、これまでより更に大型の弾道ミサイルが発射できるようになる。おそらく米国まで届くことになろう。
この実験場を使って、今年の5月の党大会までに新たな弾道ミサイルの実験をするであろう。そのミサイルに今回実験した水爆を搭載する計画であると考えるのが妥当だ。
<今後、中朝、米朝関係はどうなるのか>
中朝関係は最悪な状態になるであろう。
昨年12月に北朝鮮モランボン楽団が、突然帰国した。その理由は、中朝のアンダーでの交渉で、北朝鮮が核実験と弾道ミサイルの発射を「認めて欲しい」と中国に伝えたところ、それを反対されたために、モランボン楽団を帰国させたものと私は考えている。つまり今回の実験は、中国の反対を押し切って実施したのであるから、中国は苛立ち怒っているはずである。
恐らく北朝鮮は、中国や国連からの制裁などは覚悟の上の行動であろう。
これから、中国からの石油や食料の支援など、中朝の交流はストップする。当面、話し合いは行われるかもしれないが、北朝鮮は、引き続き弾道ミサイルの実験を行うであろうから、「中朝の交渉は決裂する」、進展はしない。
これまで米国は、「北朝鮮が開発を凍結する」といって2回騙された。北朝鮮は、支援を得ながら核兵器や弾道ミサイルの開発を継続してきた。このことから、米国は容易には交渉に応ずることはないでだろう。
【なぜ、北朝鮮はそこまでやるのか】
現状が続くと米朝関係は停滞したまま変化がなく、経済も低迷が続き更に衰退していく道しかない。北朝鮮は経済を発展させたいが、その方法はない。「八方塞がりの状態」だ。
更に、北朝鮮が米国に核の脅威が与えられるかというと、小型化した核を保有しているかもしれないが、米国まで運搬できない。北朝鮮が保有する核兵器の数は少ないので、米国から反撃されれば、北朝鮮はボロボロにやられて潰されてしまう。
米国に対抗できない状態は、米国の脅威に屈したままでは改善できない。米国が出てきてくれないので話し合いもできない。まさしく「八方塞がり状態」だ。
北朝鮮は、中国からの制裁でしばらく苦しい状況になろうとも、近い将来には米国に届く核を見せつけられる、核保有国として対等になると考え、近い将来、「対等の交渉ができる」ように一か八かの賭けに出たといえる。
【日本、米国はどうすべきか】
①中国とロシアも含めて制裁強化による北朝鮮の核兵器開発を断念させる
日本は、主に米国と歩調を併せ、中国・韓国・ロシアとも協調して、徹底した制裁を行うべきだ。ここで水爆の脅威に負けて、交渉を行い、「北朝鮮が開発を凍結する」などと言ってくることに騙されてはいけない。そのようなことはこれまで2回も経験している。
日米は、中国やロシアとともに、経済制裁を行い、「核兵器を放棄する」あるいは「金正恩体制を崩壊させる」のどちらの道を選ぶのかといった二者択一の選択をさせるべきだ。中国が完全に石油を止めれば、ロシアが石油を輸出しなければ、北朝鮮が敗北することは目に見えている。
併せて、金正恩体制崩壊までの道筋をつけるべきであろう。
②弾道ミサイル防衛、対潜水艦作戦能力を飛躍的にアップすること
近い将来、水爆かブースト型核爆弾を搭載した弾道ミサイルが、米国に届く可能性がでてきた。そのため、防衛的には、確実かつ早期にミサイル防衛ができるシステムの整備を完了させておくことが必要になる。この場合、日本は、北朝鮮との地理的位置から見て、弾道ミサイル防衛のための存在価値が高まる。
また、北朝鮮は、潜水艦発射弾道ミサイルおよびこれを運搬する弾道ミサイル潜水艦の開発も進めている。まだ開発に時間がかかるとはいえ、その意志を持ち開発を行っているので、日米は、北朝鮮の潜水艦対処能力も整備していかなければならない。中国やロシアの弾道ミサイル潜水艦に比較すれば、まだまだ低レベルのものではあるが。