百万人を超えるシリア難民が欧州に押し寄せ、世界の耳目を集めたのは2015年、わずか2~3年前のことである。最近はあまりこのニュースを聞かなくなったが、問題は解決したのか。残念ながら答えはノーである。中東やアフリカからの難民は欧州への最終出発地であるトルコとリビアに溢れ、運よくギリシャやイタリアに辿り着いた難民は両国の暫定難民収容施設に「滞留」している。この間、EU諸国は2015年に多数決で無理やり合意した16万人にのぼるシリア難民の「再配置」(EU加盟国間での受け入れ難民数の割り当て)をめぐって今もすったもんだの騒ぎを続けている。
問題の根幹に「ダブリン難民規則」(1990年)がある。このEU規則によれば、難民が最初に到着したメンバー国が受け入れの全責任を負うとされている。早い話が、ギリシャとイタリアの2ヵ国に受け入れ義務を負わせるものである。難民数が多くなかった当時の合意だが、百万人を超えるようになれば話は別であり、両国は協定の見直しを強く要請している(2015年の16万人再配置計画はダブリン規則の「適用除外」扱い)。EU委員会も見直しに前向きで、2016年に改定案(注:厳しい難民審査によって大半の難民を出身国に送り返す一方、認定を受けた者はEU加盟国間で「再配置」することを骨子とする)を提示しており、欧州議会もこれを承認したが、ハンガリーやポーランドなどの東欧諸国が国家主権の侵害だとして激しく反発し、改定の目途は立っていない。現在のダブリン規則(2013年に改正)については昨年7月に欧州裁判所が有効性を認める判決を下している。
先述の16万人再配置計画の現状をみると、昨年末現在、受け入れが確定した難民は3万人強、残りはドイツやフランスの暫定収容施設で審査待ち状態にあるか、ギリシャやイタリアの難民キャンプに滞留したままである。この間も、昨年だけでもイタリアには新たに11万人以上の難民が押し寄せ、難民センターはいよいよ人で溢れかえっているという。ドイツでは20万人、フランスでも過去最多の10万人以上の難民申請があった。最近ではアルバニアからの不法移民が難民申請する事例が増え、当局は頭を抱えている。フランスでの難民認定割合は昨年の全体平均で36%だが、アルバニア人の場合はわずか6%だというから、誠に悩ましい状況ではある。
他方、2016年3月のトルコとの合意でギリシャに入る難民の数は同年後半から減少しており、イタリアへの難民流入もリビアの沿岸警備隊の訓練強化で減少傾向が見られるという。ニジェールではEUの支援を受けてサハラ砂漠を縦断しての越境難民を阻止しているらしい。しかし、こうした難民流入の抑止策はトルコやリビアといった抑止地に大量の「難民予備軍」を滞留させ、人身売買など別の人道問題を惹起しているらしい。難民問題の根本的な解決には難民出身国における紛争の解決や貧困問題への取り組みが不可欠だが、難しい課題であり解決には時間もかかる。当面は現実に発生している難民の受け入れ負担をめぐる関係国間でのボールの投げ合いが続かざるを得ないのかも知れない。
翻って、わが日本も増大する難民申請の処理に四苦八苦し始めている。2016年には過去最多の10,901件の難民申請があり(認定は28人)、17年には1~9月だけで14,043人の申請があった(認定者は現在のところ10人)。問題は在留期間が過ぎた技能実習生や留学生が就労目的で難民認定制度(申請後6ヵ月が経過すると就労可能)を悪用していると見られる事例、いわゆる「偽装難民」が激増していることである。昨年1~9月の難民認定申請者のうち技能実習生が2,035人、留学生も1,773人に上る。国籍のトップ5はフィリピン、ベトナム、スリランカ、インドネシア及びネパールだが、これらの国の申請者で難民認定された者はゼロだという。
法務省はこの制度を改正してこれらの「偽装難民」申請者には就労を認めず入管施設に収容する方向で検討中と報じられているが、当然のことであろう。そうでなければ、「真正の難民」に対する迅速な認定審査が滞るばかりである。