トランプ政権は19日「国家防衛戦略」を発表し、「中国は地球規模で米国の主導的地位にとって代わろうとしている」との警告を発した。17年10月の共産党大会で習近平主席は長文の報告書の中で2050年には米国に匹敵する軍事力を持つとの目標を表明した。中国の軍事費増は10年以上、毎年二ケタの伸びを示して来た。最近は南シナ海の岩礁を埋め立て軍事基地化するなど露骨な軍備拡大策を取り始めた。
こういう状況の中で訪中した自民党の二階俊博幹事長と公明党の山口那津男代表は「中国の一帯一路政策に協力しましょう」などと言っている。両氏とも世界情勢の認識が皆無なのに驚くしかない。一帯一路政策は、中国の新しい植民地拡大政策といってもいい。北側の国々に大道路を造らせ、それをヨーロッパに延伸する。南には海路で中東に直結する。ウイグルやポーランドの“一帯”建設事業をテレビで見たが、何もないところに大動脈を作り、途中に貨物集積所を設けて、中国物資を世界中に売ろうという魂胆が丸見えだ。スリランカの南部のハンバントタ港建設に当たってスリランカ政府は高利の資金援助を受けた結果、返済不能となり、債券軽減と99年間の港の運営権と治安警備の権限を譲渡せざるを得なくなった。
アヘン戦争のあと、英国が香港を99年租借したのと同じ手口である。かつてアジア各国はこの手口であらかた植民地にされたが、今これを中国がやろうとしているのである。パキスタンはインダス川にダムを建設しようと誘われていたが、結局中国の申し出を拒否した。インダス川関連のインフラを支配されれば、パキスタンは中国の属国と化す。ネパールも中国との合弁企業で水力発電事業を起こす予定だったが、合弁相手が「財務違反」を犯したとの理由で事業を取り消した。
一帯一路事業があちこちで引っ掛かっているのは「この路線は怪しい」と各国が中国の大型インフラの危険に気付き始めたからだ。
この一帯一路の資金源は中国が設立したAIIB(アジアインフラ投資銀行)だが、日本と米国は加入を断った。資金難のAIIBは欧州各国に加入、出資、増額を迫っている。公共事業一点張りの政策はそのうち大インフレや銀行の破産につながるのではないか。
公共事業しか頭になかった田中角栄氏が首相になると凄まじいインフレを引き起こした。慌てて政敵である福田赳夫氏を大蔵(財務)大臣に据えて3年間事業を凍結してインフレを克服したことがある。
中国は地球規模の覇権を狙える力がある。何しろ技術は盗み取り、知的財産権などは取り放題。日本がTPPに誘わないのは、規律や道徳観など無視する国とルールは作れないからだ。トランプ氏は近く中国の知的財産侵害に巨額の罰金を科すと言っている。誰が敵で、誰が見方かを吟味しないで、「隣国だから仲良く」などという理屈はないのである。
(平成30年1月24日付静岡新聞『論壇』より転載)