トランプ大統領の貿易政策には驚かされる。大統領就任当日にTPPからの脱退を発表。最も親密な貿易相手国だったはずのカナダ、メキシコとのNAFTA協定も“やり直す”と宣言。3月8日には鉄鋼とアルミの輸入品が米国の安全保障を脅かしているとして鉄鋼に25%、アルミに10%の新たな関税をかけることを正式に決めた。このトランプ氏の貿易政策を見て自由貿易派のゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長が辞意を表明した。トランプ氏の言い分は自由貿易の守護神たるべきWTO(世界貿易機構)が「米国を正当に扱っていない」というものだ。
17年の統計で米国は世界GDPの24.3%を占めて1位。2位の中国は14.84%だが、中国は経済成長率を6.5%前後でずっと行くという。10年この成長を続けると中国は2倍の体積になることになる。資源もエネルギーも今の2倍必要になるということだ。
軍事費は18年度、前年の8.1%増の1兆1069億元(約18兆円)で、2050年には軍事力は世界の超大国となるという。その成長をかなえる手段として、中国は一帯一路の公共事業を周辺国に強要している。中国の政策に逆らうものがいれば、背景に軍事があるぞ、という構えだ。一帯一路を強要された国の事業費は中国がいくらでも貸すといって始まったが、元本はおろか、金利も払えない国が続出している。これに対して中国は領土割譲、港湾などの管理会社買収、99年間の中国支配権を認めさせるなど悪代官並みの権力強化を進めている。
トランプ氏の念頭にあるのは強大化する中国にどう対応するかの一点だろう。もともとWTOはその公平な市場経済を形成する理念のもとに設立された機関である。本来なら、WTOに加盟した一国は他の国に差別をつけてはいけないのが原則である。しかし経済の熟度が違う国同士が同じ条件で交易するわけにはいかない。そこでNAFTA、TPPなど近似性のある地域が集まって関税を調整し、貿易協定ができ上がった。ただしその前提はフェアな市場経済である。
中国は社会主義経済体制だったが、78年に改革・解放路線に切り換えて、86年に加盟申請したが、15年間認められなかった。いったん加盟となれば、他の市場経済国と同等の権利を得る。ところが中国のやり方は、精密な製品を買って来て、分解して部品を真似る。同じ製品も製造できるし、部品も売れる。他国の特許などはあって無きが如くなのだ。知的財産権や特許など「真似てなぜ悪い」と居直るのが、中国、韓国だ。
安倍晋三氏が米国抜きのTPP11をつくる狙いは、盗難や知的財産権に極めて厳しい協定だ。端的に言えば“中国抑止”である。トランプ氏がTPPに入っていいと言い出したのは、その知恵に気付いたからではないか。
(平成30年3月14日付静岡新聞『論壇』から転載)