既に数か月前のことになるが、英誌「エコノミスト」の調査部門が「安全都市インデックス2017」という国際指標を発表していた。2015年に最初の指標が発表されて以来、2回目であるが、評価対象となった世界の主要都市60のうち第1位が東京、第3位が大阪という順位は変わらなかった。日本からはこの2都市しか評価対象になっていないので、日本の大都市の安全度が国際的な認知を得た形になっている。
この指標は身体的な安全性(犯罪被害)だけを評価の対象にしているわけではない。もし、そうであれば東京は第4位(大阪は第3位のまま)にランクされてしまう。むしろ、東京が高い評価を得ているのは、サイバーセキュリティ(第1位)と医療・健康環境の安全性(第2位)の分野である。大阪はこの医療・健康環境の安全性の分野では何と世界一にランクされている。日本に住んでいるとその実感がないが、「国際比較」ではそうなるらしい。
勿論、これら日本の2都市が共にやや低く評価されている分野もある。それは、「インフラ」である。ここで言う「インフラ」とは、都市インフラなどの物理的環境や、災害・テロ攻撃に対する脆弱性などであり、都市インフラの中では特にその質や交通機関による安全対策のレベル(自動車事故発生件数や歩行者の死亡事故発生率)が評価の対象になっている。この分野では大阪が第11位、東京が第12位で、第1位となったのはシンガポール(総合第2位)である。
サイバーセキュリティが4つの評価分野の中の1つになっているのは興味深い。それは都市のスマート化が急速に進み、電力、ガス・水道あるいは交通システムなどの都市インフラがコンピューター管理される時代になり、サイバー攻撃された場合にこれらのシステム全体がマヒし、都市機能を失う危険性があるからであろう。実は、大阪はサイバーセキュリティ以外の3つの分野すべてで東京を上回っているにも関わらず、この分野だけが第14位にランクされているために、総合評価で東京を下回る結果になっている。サイバーセキュリティ専門家チームの未整備がなりすまし詐欺やコンピューターのウィルス感染などの被害原因になっているとマイナス評価されているのかも知れない。
今回の指標を見ていて驚いたのは米国の主要都市の評価が総じて低いことである。米国からは6都市(ニューヨーク、サンフランシスコ、シカゴ、ロサンゼルス、ワシントンDC、ダラス)が評価対象に選ばれているが、最も高いランクに入ったのはサンフランシスコの第15位で、ダラスはヨーロッパのほぼすべての都市より低い第26位である。サイバーセキュリティの分野を除き、他の3分野でトップ10に入っている都市は1つもない。特に医療・健康環境の安全性の分野ではニューヨークがブエノスアイレス、メキシコシテイ、上海といった発展途上国の都市より低い第31位にランクされているのは驚きである。老朽化が進む都市インフラの問題も深刻のようだ。ここでも第34位のダラスが南米の主要都市(ブエノスアイレス、サンチャゴ、リオ、サンパウロ)より下位にランクされている。
最後に、アジアの主要都市(シンガポール、香港を除く)の評価を見てみる。総合評価で最も高いソウルが第14位、台北が第22位とまあまあだが、クアラルンプールと北京、上海が30位代、デリー、ムンバイ、バンコクが40位代、そしてマニラ、ホーチミン、ジャカルタ、ダッカなどが(評価対象60都市の中では)ほぼ最下位の50位代後半にランクされている。分野別でみても、医療・健康環境の安全性でソウルが第5位、個人の安全性で台北が第6位、といった例外はあるものの、アジア諸都市の評価は総じて最下位に近い。
何はともあれ、日本の二大都市の安全性が世界トップランクの評価を得ていることは(我々住民の実感との乖離はあるものの)喜ばしいことではある。取りあえずは、「世界の他の大都市よりはまし」ということであろうか。それにしても米国主要都市の安全性評価が軒並み低いのは、米国人の生活の質の低下を示しているようで、気になる。トランプ大統領の「米国第一主義」が登場した背景の1つとしてこうした事情も関わっていそうな気がしないでもない。