2017年末時点で我が国に在留するベトナム人は技能実習生や留学生を中心に26万2000人、前年末比で31%も増えている。それ自体は悪いことではないが、私が残念に思うのは彼らによる犯罪も著増していることである。先般、警察庁が発表した来日外国人犯罪統計によれば、昨年1年間における来日ベトナム人の犯罪件数は5140件で、前年比で62%増、ついに中国人を抜いて国籍別犯罪件数で第1位になっている。
ベトナム人の犯罪は「重要犯」とされる事案は比較的少なく(全体の1.7%)、窃盗や不法滞在が大半である。窃盗事案では相変わらず店舗での万引き(全体の40%)が多いのだが、侵入盗(空き巣等)も325件、このうち「重要犯」とされるものが前年比で2倍超(44件)になるなど大胆かつ組織的な手口も増えているという。
昨年、逮捕・書類送検されたベトナム人は2549人(うち刑法犯57%)に上り、その内訳を在留資格別にみると、留学生が41%で最も多く、次いで技能実習生が23%、定住者が6%になっている。日本には、昨年6月末時点で、約7万人のベトナム人留学生が在留しているが、そのうち1千人超、約1.5%の者が摘発されていたことになる。驚くべき数字である。
なぜ、こうしたことになるのか。その最大の理由はベトナム人留学生の経済的困窮である。彼らの多くが本国において斡旋業者の手配を受けて日本に留学してきており、斡旋料として100万円前後を支払っていると言われる。従って、来日後は借金した斡旋料の返済のためにアルバイトに精を出すことになる。厚生労働省の統計を下に試算すればベトナム人留学生1人当たり平均で1.5件のアルバイトをしており、1週間に40時間近く働いている者も少なくないらしい。勿論、留学生などの来日外国人が資格外活動として行うアルバイトには週28時間以内という制限があるが、複数の場所で働いていれば雇用者側は総労働時間数を把握出来ない。
ベトナム人留学生の留学目的をみると「日本語の習得」のため日本語学校に通う者が増えており、今や全留学生の半数近くがこうした留学生である。彼らは学部生や大学院生と違って単位取得への義務がなく、日本語学校での学習時間も拘束が少ないために、アルバイトに専念しやすい。しかし、バイト料は借金を返済するには十分ではなく、犯罪への誘惑に引き込まれやすい状況にあるのではないか。
他方、技能実習生は給与を受け取っている上に、監理団体や受け入れ団体の指導もあるので敢えて犯罪に手を染めなくても良さそうだが、給与には種々の名目の天引きがあり、手取り額では10万円以下というケースも見られる。しかも、彼らの職種の多くが日本の若者が働きたがらない「きつい」、「きたない」系の仕事ということもあって実習期間の途中で失踪してしまう者までいる。その行きつく先は「不法滞在」ということである。
昨年、首都圏で209件(総額1億7000万円)の空き巣を繰り返していたとして警視庁に摘発されたベトナム人窃盗グループは、12人全員が留学生や技能実習生だったという。彼らはSNSでプロの窃盗団にリクルートされていた。勿論、こうした深刻な事例は多くはなく、出来心から店先で万引きするといったケースが大半なのだが、事態を放置することは日本、ベトナム双方にとって良くない。
現在、両国政府のレベルで協議が行われ、さまざまな対策がとられつつある。責任の第一は犯罪を犯す当人にあるが、送り出し側・受け入れ側双方にも事態改善に向けて打つべき手は多い。数日前に警察庁が発表した今年1-3月の犯罪統計(未確定)では昨年同期に比べてベトナム人犯罪に若干の減少傾向が見られる。特に「重要犯」だけに限れば20件から8件に半減している。私としてははるばる日本まで来て、犯罪者として収監・退去強制されるベトナムの若者が一人でも少なくなることを願っている。