「異常タックルを仕掛けさせた日大内田監督」
―伝説の猛特訓で何を教えてきたのか―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 日大のアメフット部の内田正人監督が「すべて私の責任」と述べて監督の引責辞任を表明した。普通なら監督辞任で騒動は幕引きとなるものだが、他大学の監督からは全く反応なし。調査結果をまとめた日大側の謝罪文が発表されることになっているが、それでも他大学の監督達を納得させることは難しい雰囲気だ。
 SNSで流れた日大選手のタックルは異常なものだった。関学大QBが前方にボールを投げ終わったのち、何秒か経って後ろからタックルを仕掛けているのだ。QBは3週間のケガ。タックルした選手はこのあと2回の反則を犯して退場となった。最初にこの選手が語ったのは、監督から「QBを1回で壊して来い、と言われた」というものだった。日大は1917年、27年ぶりにリーグ優勝を果たしているが、そこに至る猛特訓の様は伝説にもなっている。自らを鍛え上げる特訓は自由だが、相手に怪我をさせることまで教え込んだとも言われている。一人の乱暴な選手の行いなら、全監督が揃って、「試合中止」を決めるわけがないだろう。かねがね危惧していた日大の荒っぽさを食い止める必要を感じているからだ。
 高校で部活をやり大学で運動部に入る風潮をいい制度だと評価しているが、教えなくてはならないのは勝負をどう受け止めるかだ。私は剣道部にいたが、勝ってニコニコした途端に師範に厳しく叱られたことがある。「負けた奴の心情を思いやれ」という。武士道でいう惻隠の情を知った。相撲で白鵬が勝った時の表情や勝ち方について横綱審議委員長の北村正任氏は「美しくない。見たくない」と断じた。
 アメフトは外来競技だから勝って大騒ぎしても結構だが、卑怯は内外共に許されない。その心を学ばないのでは、優勝しても何の価値もない。
 内田氏は潔く辞任したが、依然として日大6人の理事ワクに留まるという。現在、氏は人事担当で理事長に次いで2番目の地位にある。反則行為が起きて、関学当事者と被害者と面会し、謝罪と監督辞任を発表するまでに13日もかかったのは何故か。本人が監督を辞めた後、後任に誰を据えるのかなど、段取りをつけていたからではないのか。
 そうだとすると日大アメフット部の体質は全く変わらないだろう。
 「監督辞任」「一連の責任は全て私の責任」という言葉は誠に潔いが、この一言で、実態がどうであったか。どこを直すのか。何を教えるべきなのか。全て不問に付されてしまう危険がある。 
 日本人が世界の中で尊敬を受けているのは、国民一人一人が礼儀正しく、フェアな精神をもっていると世界的に評価されているからだ。自ら言うのも恥ずかしいが、私は40年前、ヨーロッパに赴任した時、戦犯国と自認して小さくなっていたが、あちこちで評価され、尊敬されているのに驚いた。その評価は先人達が築き上げたもので、内田氏のような人はこの評価を高める義務がある。
(平成30年5月23日付静岡新聞『論壇』より転載)