オーソドックスな米共和党支持者はトランプ氏の大統領当選にびっくり仰天し、「この政権は1年以内に議会で弾劾決議が通って、政権はペンス氏に代わる」と言っていたものだ。支持率は40%程度だが、不人気な政策を打ち出してもこれ以下には下らない。一般国民が全部反対しても共和党の60%程度は支持するから、トランプ氏の弾劾はなさそうである。
就任後に鉄鋼・アルミの関税を引き上げると言ったかと思えば、最近は欧州車に20%の関税をかけるという。中国のIT企業には知的財産を盗んだ罰金として14億ドル(約1532億円)を支払えという。この基本姿勢を基に、最近数十の大統領令が発せられた。6月に行われたカナダでのG7では、先進5ヵ国を代表してメルケル独首相が立ったまま、椅子に座ったトランプ氏に説教をする写真が載った。安倍首相は真ん中に立って思案の腕組みをする図である。
この貿易戦争はいつ果てるかも知れぬ危険を孕んでいるが、2極に分解して解決するのが、最上だ。
第1極は中国を別にして考えることである。10年ほど前、米国の平凡な一戸建て家屋を取り上げて、家の中から「中国製」を取り除いて庭に積み上げる番組がテレビで報じられた。何と残ったのは空っぽの家屋だけだった。これはあらゆる製品が中国製で埋まっているということだ。トランプ氏は「北東部のラストベルトに工場を」と叫んでいるが、工場がないのはラストベルトだけではない。売れるものは中国が何でも作る。盗んだものを高度化して売るという作業も何十年にもわたって続けてきた結果だ。中国は儲けた分で毎年2ケタの軍備増強を20年も続けてきた。米国を打ち負かすほどの軍事力強化を目指している。そこで自由貿易体制の市場から社会主義市場国(実は何のことか判然としない)を選別し、別の貿易ルールを策定するべきだ。
第2極はWTOに加盟している自由主義国の貿易体制は耐用年数が過ぎたと認識し、作り直すことである。1955年にWTOが発足した時に、各国はハンディを名乗って協定を作った。日本はコメは一粒も輸入しないとか、車には10%の関税をかける――などである。日本は現在、車の関税はゼロに近いが、10%のハンディは時間の経過とともに自ら削った。工場の自動化や構造改革に励んだ。米国はメキシコの車なら関税なしで輸入する契約を結んだ。何十という自動車工場がメキシコに立地し、車を米国に輸出した結果、米国の自動車地帯が潰れたのである。条約には耐用年数というものがある。各国の成長率に差があれば、10年も経てば競争条件が変わってくるのは当たり前だ。安倍首相が主導して作ったTPP11は現在の経済状況を土台に将来を見越して作り上げたものだ。トランプ氏が既成の条約を全部作り直せと叫ぶ一方で、TPPに入ってもいいというのも当然だ。安倍氏はトランプ氏の貿易条件のやり直しに協力せよ。
(平成30年6月27日付静岡新聞『論壇』より転載)