習近平政権が大々的に進めてきた「一帯一路」の大事業が、実は中国のイデオロギーであることが国際社会に露呈してきた。中国の陰謀なのではないかと、最初に断定されたのが、スリランカ政府と中国との合弁で進められたハンバントタ港である。建設資金はAIIB(アジアインフラ投資銀行)とスリランカ政府の合弁で行われたが、予算が拡大するとともにスリランカ側の負担だけが過大になった。このためスリランカ政府は元利を払えなくなり、中国がこの港を99年間借款することになった。
マレーシアの総選挙は一帯一路が争点となり、中国の侵出を警戒する92歳のマハティール前首相が当選した。マハティール氏はバンコクとシンガポール間の高速鉄道計画について「できても中国の役に立つだけ」と宣言して計画の白紙撤回を表明した。同氏はこのほか中国が関与した2本のガスパイプライン、高速新幹線とは違う東海岸鉄道、工業団地建設、マラッカ新港など新規の大規模事業をあらかた中止した。マハティール氏は「契約破棄の違約金を支払ってもマレーシアの財政を健全に保つことが必要だ」と断じている。
ミャンマーのソー・ウィン計画・財務相も中国がミャンマー国内で進める港湾開発事業の規模縮小を求める考えを示している。ミャンマーの公的債権(17年時点)の4割は中国で、これ以上中国債務を重くすると、中国の属国になってしまう。
ASEAN諸国は一帯一路に乗ってこの種の建設計画をどの国も抱えているが、目下、ほぼ全員が立ち止まって再考し始めた。
ヨーロッパでAIIBに最も資金を出してきたのはドイツ。同国はこれまで中国に警戒心を示したことはない。これまで冷戦中も西ドイツは中国に技術供給を続けていたという噂があった。その中国信仰の強いドイツのジグマー・ガブリエル外相は今年2月、国際シンポジウム「ミュンヘン安全保障会議」で演説を行い、「中国当局は共産党政権の利益に合った世界秩序の再構築を狙っている」と警告を発した。「金を貸す」といって巨大な事業を一緒にはじめ、最後は借金のカタに会社の所有権や領土を取るというのは、中国らしい手口だ。そのための「憲法」も備わった。
ガブリエル外相は中国当局とロシアを名指しして非難し「中露はアメとムチでEU各国に圧力をかけ続けてきた。中国の一帯一路に対抗していくには、EUの資金と投資基準で東ヨーロッパ、中央アジアとアフリカでインフラ建設計画を策定すべきだ」と強調した。フランスのエドワール・フィリップ首相も「EUは新シルクロードに関する決定権を中国当局に譲ってはいけない」と強調した。
しかしアフリカには既に1万社の会社が個別で根を張っており、「アフリカは既に中国に獲られた」との失望感が広がっている。メイ英首相は1月に訪中した際、「一帯一路に全面的に協力する」旨の文書への署名を拒んだという。中国に逆風が吹いている。
(平成30年7月11日付静岡新聞『論壇』より転載)