トランプ大統領が引き起こした貿易戦争が世界中の市場を混乱させている。何十年もの間、秩序を保って動いてきた市場はタガが外れて世界的に大混乱だ。トランプ氏への非難が一段と高まったようだ。だが、これまでの秩序が公平で正しいものだったのかは、甚だ疑問だ。特に米国にとってはあらゆる産業が自然に衰えていく傾向を示し潜在敵国の中国には絶好の儲けを提供する仕組みになっていた。米国民は現状が不公平過ぎると感じていたのだろう。その腹立ちが世界の予想外だったトランプ氏を誕生させた。
世界経済の常識は「金持ちは我慢しろ」という傾向があったが、トランプ氏は「アメリカ・ファースト」を掲げて既成の秩序をぶち壊し始めた。米国は、現体制は米国の利益を損なっていると認識したからこそ、根こそぎ破棄し新たな秩序づくりを提唱しているのだ。
現状の貿易体制はWTOの精神に裏付けられている。WTOの考え方は自由な取引を推進すれば比較優位の商品が産出される。言い換えると、どの国も得意なものを作って儲けられるというものだ。しかし完全なる自由貿易を強制すると、ある製品について、1国以外に製造する国がなくなるはずだ。もしその国が独占的立場を悪用して、価格を上げるとなると、他に競争する国がないのだから、儲け放題になる。そこで互いに関税をかけて産業を保護する。
WTO発足時点の経済情勢に合わせて、各国は関税を設けて公平な競争条件でスタートした。この条件は年を経れば歪みが出てくるのは当然だ。当時、中国は「途上国」という条件で排気ガス規制から逃れる一方、世界銀行から「途上国援助」を受け取っていた。その援助は総額4兆円に近いが、「計画が残っている」との名目でいまだに続行されている。
米国の自動車は当時ダントツだったが、競合国のドイツや日本に攻め立てられている。米国の自動車産業の象徴と言われたGMでさえ倒産しそうになった。
現在の経済状態に合わせて新しいルールに作り直す必要がある。そこで日米で作成に取り掛かっていたのがTPP(環太平洋経済連携協定)だ。そこからトランプ氏は脱退したが、新時代に合わせたTPPが必要であることは変わらない。安倍晋三首相はトランプ氏が脱退を表明した数日後、アメリカ抜きの11ヵ国でまとめる意志を表明し、現実に11ヵ国TPPは発効寸前にある。
一方で日本とEUとの間では新たにEPA(日・EU経済連携協定)を締結した。TPPもEPAも締結時の関税などを固定するものではない。現在日本は高級チーズには29.8%の関税をかけているが、15年後までには、年々削減してゼロにすると約束している。この他に中国が韓国などを交えた16ヵ国によるRCEP(東アジア地域包括的経済連携)を主導しているが、中国は自由な市場経済国ではないから資格がない。
(平成30年7月18日付静岡新聞より転載)