朴元大統領への有罪判決~党派抗争の歴史を断ち切れない韓国~

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

 先日、ソウル中央地裁で朴槿恵元大統領への有罪判決が下された。国庫損失罪で懲役6年、公職選挙法違反で懲役2年だという。去る4月にはサムスンからの収賄の罪で懲役24年の判決が出ているから今回の判決で懲役は合計32年になる。彼女は今66歳だから98歳まで懲役の刑に服する計算になる。
 韓国の歴代大統領の末路はことごとく悲惨である。暗殺や自殺、亡命から死刑判決までズラリと雁首が並んでおり、懲役17年の盧泰愚大統領などは「幸運な部類」に入る。朴大統領の前任の李明博大統領についても現在刑事訴追手続が進められている。現在の文在寅大統領は今のところクリーンなイメージを売りにしているが果たしてどうなるか。韓国の新大統領は必ず前任者の悪口を言い、不正を暴くことで世論の喝采を浴びようとする。5年の任期を全うしても余生は安泰ではない。
 朝鮮王朝5百年の歴史を振り返ると、ほとんど「党派抗争史」と言っても過言ではないほど、どの時代も各種の党派・派閥が離合集散して凄惨な争いを繰り返していることに驚く。特に、16世紀の後半、いわゆる「士林派政権」の時代には、些細なことで有力者が反目した上に各派閥がそれぞれの内部で強硬派と穏健派に分裂、そして強硬派内で「強硬」の程度をめぐって再分裂、再々分裂を繰り返すという呆れた有様である。同じようなことが儒教上の教義・解釈をめぐってもしばしば発生しており、対立した党派が重箱の隅をつつきながら分裂を繰り返している。韓流ドラマを見るまでもなく、抗争劇は血なまぐささを極め、暗殺・クーデター、一族抹殺に発展する。国王の廃位・擁立も日常茶飯事である。
 中国の歴史でも似たような党派抗争は発生しているが、その頻度と陰惨さにおいて朝鮮史が圧勝している。中国人の党派抗争は国政上の重要課題をめぐって発生し、公然と、激しく展開する。対立派閥をつぶす手段も乱暴である。これに対して、朝鮮人の場合は対立原因が儀礼様式などの些細な問題を端緒とすることが多く、不正のねつ造、謀略など抗争手段が「陰湿」である。これに比べると日本史に見る党派抗争などは「単純、さっぱり」という感じであり、頻度もずっと少ないようだ。多くの場合、妥協も成立する。
 私は過去のブログ(2017年9月)で「朝鮮民族のツングース的特徴」を論じたことがあるが、議論が観念論的であり、激情に走って妥協を峻拒するところにこの民族の特徴があるようだ。ことは政権内の争いにとどまらず、民衆の反応にも激烈な感情の暴発が見られる。これが、朝鮮史を通じて民衆反乱・暴動の頻発として表れている。朝鮮民族が1つの観念(思い込み)に執着する時、その是非を問わず、これを変えることは極めて難しい。観念論は純化しやすく、神学論争に似て空理空論に陥る。先般の朴槿恵大統領に対する辞任要求デモの韓国内での盛り上がり振りからも、一旦「悪者」と観念されたらそれが最期であり、謝罪などは聞き入れずトコトン突き進んでしまう国民性が看てとれる。慰安婦問題への反応も同種である。
 冒頭に述べた朴槿恵裁判はテレビで生中継されたという。韓国の司法が政治に左右されやすいことは周知の通りだが、実態は、政治というより民衆の「観念」という不可視のものによる呪縛なのではないか。韓国メディアにも同じ傾向がある。歴代大統領の末路がことごとく悲惨であるのは、後任の大統領が世論の支持を得るために前任者の悪事をことさらに誇張し、民衆の怒りを意図的に誘発するからだろう。「やっぱりそうだったのか」という大衆の「観念」(=怒り)に火を点ける手法である。(しかし、有罪大統領も、後年に特赦、恩赦で減刑・放免されるから始末に終えない。)
 現在の北朝鮮の核・ミサイル問題をめぐる混迷も上述したような朝鮮民族の特徴を理解しない限り対処が難しい。脅迫観念と妄想が指導者を突き動かしている。そう言えば、朝鮮王朝の創始者である李成桂の出身地は咸鏡道である。現在の北朝鮮の最北部、中国との国境に近い山岳部の生まれのようだ。朝鮮王朝史に見る党派抗争の権謀術数と隣接大国を手玉に取ってきた詐術は今の北朝鮮にも脈々と受け継がれているのであろう。