安倍首相の正式な立候補表明に備え、細田、麻生、岸田、二階の派閥が総裁選対策本部を立ち上げた。総裁選には国会議員(405票)とともに党員、党友による地方票(405票)も加わるため、総裁選挙で地方票を取り込むことが重要だからだ。
1994年に中選挙区制が廃止され、小選挙区比例代表並立制に切り換えられた。中選挙区制を何が何でも止めようという動機は金権選挙、金権政治がきわまったからに尽きる。
派閥の親方は子分の選挙資金、政治資金を工面し、大臣などの役職にもつけた。勿論、公認権も握っているに等しかった。田中角栄氏などは政敵の選挙区に子分を立てて、相手を落選させる手も使った。ロッキード事件で党籍を離れたが「自民党周辺居住者」と称して党内に子分を養い、一時は150人もの大派閥となった。これだけ養おうとすれば、金権政治で集めるしかない。この独善、不徳が中選挙区制度廃止の起爆剤となった。
小選挙区にした狙いは何か。第1に党の公認権は党が握る。第2に政治家が金集めをしないように政党に交付金を配布した。以上の金権の要素を取り除くと、議員はあえて親分をいただく必要はなくなる。思想、信条の近い者同志が集まるようになるはずだ。
ところが最近、細田、麻生派が伸長し、麻生氏はかつて宏池会に所属していたこともあり、岸田派を飲み込もうという話まで出てきた。竹下亘総務会長も旧竹下派を引き継いだせいか、派閥活動を活性化しようと懸命だ。派内の大勢は安倍支持なのに、元参院議員会長の青木幹夫氏の力を借りて、石破氏にまとめようとしているかの如くだ。派閥化が思想、信条の統一を邪魔してはならない。
安倍一強と言われるほど安倍晋三氏の支持が高いのは、外交・防衛政策で党内が一致しているからだ。旧宏池会では日米中の“正三角形”論を説く人が多かった。宏池会のプリンスと呼ばれた加藤紘一氏は親中派で、当時の森喜朗内閣を倒そうとした。野党民主党の菅直人氏に内閣不信任案を出させて、それに賛成して森内閣を打破、加藤内閣をつくるというものである。後に鳩山、菅内閣ができて、米国離れを起こし、日米関係を危うくしたが、加藤氏の頭の中も菅直人氏と同じだった。
日米安保条約、「明るく開かれたインド太平洋戦略」と日本を取り巻く安全網は広がり、強化されつつある。この中国拡大阻止政策は、地球的規模で広がっており、半世紀や一世紀は変わらないだろう。ところが竹下亘氏は加藤紘一氏的発想で外交問題を考えているふしがある。派閥力学を利用して安倍外交を変えたいのか、ポスト安倍を巡って活躍する思惑があるのか。古賀誠前宏池会会長も山崎拓元自民党副総裁らも昔ながらの派閥遠隔操作を試みているようだ。
野党の国民民主党が全く求心力を持たないのは外交・防衛政策について口をつぐんでいることに尽きる。
(平成30年8月8日付静岡新聞『論壇』より転載)