平昌冬季五輪後の不法残留外国人に頭を抱える韓国

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

 最近、韓国法務省が明らかにしたところによると、平昌冬季五輪の際に入国した外国人約35万人のうち同五輪後に出国せず韓国に不法残留している者の数が1万人を超えるという。韓国政府は去る2月に開催された冬季五輪への外国人客呼び込みのため90日間のビザなし渡航を認める特例措置をとったが、3ヵ月たっても出国が確認されない者が30人に1人以上の割合(総数で11535人)に上っているらしい。このため、韓国国会関係者から治安悪化などの事態を懸念する声があがっている。
  近年、韓国における不法残留外国人の数は著増傾向にある。韓国法務省の統計によるとこうした外国人の数は2016年7月時点で21万人を超え、雇用への悪影響や治安悪化を懸念する国民の不満も高まっている。某韓国紙が今月初めに報じたところによれば、外国人に対する入国審査の厳格化を求める請願書に2カ月間で71万人の署名が集まったという。特に、20~30歳代の若い女性の間に治安悪化を懸念する声が強まっているようなので、最近のレイプ事件の多発と関係があるのかも知れない。
 そもそも、韓国に在住する外国人の比率は高く、昨年の統計で国民人口の3.9%に上る。実に日本(2.0%)の2倍近い。2021年には外国人300万人超、人口の5.8%に達するとの予測もある。韓国統計局が「住民登録している在住外国人状況」なる統計を毎年発表しているが、それによると2017年1月時点の外国人総数は116万人のようなので、不法残留者を含む「住民登録していない外国人在住者」が現時点でほぼ同数いることになる。
 ここで、「住民登録している在住外国人」の国籍について日韓両国の比較をするとお互いに似たような傾向が見られるが、顕著な相違点もいくつかある。その第一が、日本に在留する韓国人と韓国に在住する日本人の数の違いである。前者は(歴史的事情もあって)昨年末時点で40万人の多数に上るが、後者は2.3万人に過ぎない。しかも、韓国在住日本人の実に70%が女性であり、日本国籍を保持したまま韓国人男性と結婚している人が多いということだろう。
 二番目の違いは韓国側統計には「朝鮮系中国人」という分類があって、この数が全外国人の30%以上(約33万人)を占めていることである。彼らの在留資格は多岐にわたるが、最も多いのは「労働」である。中国東北部には朝鮮民族が多く住んでおり、経済発展著しい韓国に労働力を提供し続けているのである。もっとも、日本にも「日系人」という在留資格(注:統計上は永住者・定住者に分類)があってブラジル人(19万人)やペルー人(4.8万人)の大半がこれに該当し、同じように労働力を提供している事情がある。
 ベトナム人が増加している事情は日韓ともに共通しているが、具体的状況はやや趣を異にする。ベトナム人技能実習生(研修生)は韓国にも多いが、留学生は圧倒的に日本の方に多い。しかも、両国の間で顕著な違いとなっているのがベトナム人女性との国際結婚の数である。ベトナム人女性で日本人男性と結婚し、日本に在住している人は3000人ほどに過ぎないが、韓国人男性と結婚して韓国に住んでいるベトナム人女性の数は公式統計に計上されている分だけで4万人以上、実際には10万人を超えるのではないかと言われている。韓国人の国際結婚の相手方を国籍別で見てもベトナム人(97%が女性)が最も多い。この背景については以前にこのブログ欄で紹介した(2017年7月)ので繰り返さないが、その後も状況に大きな変化はないようである。
 不法残留外国人の国籍別内訳は明らかでないが、ここでも(中国人に加え)ベトナム人の比率が圧倒的に高いと言われている。韓国には中央アジア、特にウズベキスタンからの在住者が多い(3万人以上)が、彼らの不法残留も問題になっているようだ。日本に在住するウズベキスタン人は2900人ほどしかいない(大半が留学生及びその家族)ので、韓国に10倍以上ものウズベキスタン人が在住しているのは驚きである。