「安倍批判だけでは首領の資格はない」
―憲法改正つぶし、野党化する石破氏―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 自民党総裁選挙は安倍晋三氏と石破茂氏の一騎打ちとなったが、安倍氏がすでに議員票の8割を握っているという。総裁の三選を認めた時点で、党の総意は「安倍政治で行くのがいい」と判断したはずだ。「それでもオレは出る」という以上、「安倍ではまずい」理由を述べるのが筋だろう。『政策至上主義』という石破氏の新著がバカ売れしたとか、安倍外交が破綻したというなら選挙も意味がある。何の事件もないのに「代われ」というのは党人としての器量を疑われるのではないか。
 中選挙区の時代は派閥が5つほどあったから、総裁選の度に「調整」が行われた。誰が下りて誰を支持するという裏工作である。その時のエサはまとまった政治資金か、新内閣での役職である。裏でやり取りしているはずの工作が「あの派閥は7億円で買われた」などと、時に表沙汰になる。世間からは金権政治だと袋叩きになるのは当然だ。田中角栄氏が登場してから、金権政治は一段と酷くなった。金権政治の元は派閥の誕生である。なぜ派閥が誕生するかと言えば「中選挙区制度」の故だと断じられて、70年ぶりに小選挙区比例代表並立制の現行法に変わった。
 中選挙区制度廃止について石破氏は急先鋒となって、自民党を離党するほどの勇気を示した。森喜朗元首相など古手の党人派政治家は、「石破氏は何度も党を代わった」と言って非難するが、あの革命のような選挙制度改革の運動は、党を飛び出るほどの勇敢な人たちがいてこそ実現できた。
 政界の当時と現在を比べてみれば、どれだけ改善されたことだろう。安倍晋三氏が選ばれた時にカネが動いたという話は聞かない。派閥も残ってはいるが、政治活動に不便だから「仲間が集まる」といった程度の塊だ。
 安倍内閣発足時に幹事長だった石破氏は「派閥は解消せよ」と言って、無派閥になるのを奨励した。ところが派閥がないと総裁選挙に立ちにくいと気付いてか、いつの間にか20人の石破派をこしらえた。本来なら派閥がなくても信望と政治手腕があれば、30人や40人の推薦人は何時でも現れるはずだ。今の自民党にはこれまでにない一体感がある。
 憲法改正をやるとすれば、安倍政権しかないだろう。安倍案は9条はそのままに、9条に2項を追加して自衛隊を認めるというものだ。これが公明党も賛同できる最大公約数とみている。石破氏のように「9条2項を削除して自衛隊を書き込む」のは安倍氏を含めて最善だと思っている。しかしこれでは反対派が増えて改正はできなくなるというのが党執行部の判断だ。石破氏に固執すると憲法改正は失敗しかねない。石破説は改正論者にとっては「改正つぶし」でしかない。
 石破氏はモリ・カケについて「正直、公正」にやれと非難しているが、冷静に振り返ればこれは野党側の無理押しにすぎなかった。心境や物事の判断まで野党化するのでは首領に向かないと自覚すべきだ。
(平成30年9月5日付静岡新聞『論壇』より転載)