米中間では激しい関税のかけ合いが行われている。これは単なる貿易戦争ではない。米ソ冷戦に匹敵する米中冷戦というべきものだ。
中国の政策目標は「製造2025」と名付けられているが、航空・宇宙・ロボットなどの最先端技術を手に入れる目的で、戦略的に人材を潜入させるもの。手口は中国人技術者を最高級の研究所に勤務させたり、優良企業に潜入させ、トップクラスの技術や知識を盗む。小企業に勤める技術者を給料5~6倍で引き抜いたり、優秀な小企業を丸ごと買収することも多いという。産官学一体のこの「製造2025」は、既に米国に匹敵する技術レベルに達したと言われている。
これを知るトランプ大統領は、怒り心頭に発している。自由市場に参入して儲け放題、盗み放題、軍事的にレベルも一段と向上していることだ。トランプ氏はまず儲け放題の部分に関税をかけた。中国もそれに見合う関税をかけたが、関税を同じようにかけ合えば中国が負ける。何故なら中国からの年間輸入総額は4,000億ドル、米国から中国への輸出総額は1,000億ドルと4分の1の差があり、同様の打撃は与えられない。
米国が中国製の自動車に25%の関税をかけ続ければ、自動車会社は米国に工場を立地するようになるだろう。
WTO(世界貿易機構)はこれまで、自由貿易をひたすら強調してきたが、米国はこの自由貿易体制を守ったおかげで泥棒やパクリの大被害に遭った。トランプ氏はこのパクリの弊害を除去するため今後ハイテク産業を中国には買わせないだろう。勿論、軍事技術も売らない政策で欧州主要国とも話し合いができているようだ。
シリコンバレーは米国がハイテク技術を競わせて発展の中心地点となった。しかし米議会は「このままではシリコンバレーが壊れてしまう」との認識で「外国投資リスク審査近代化法」を制定した。外国からの小額投資をも政府が規制できるようにする内容だ。このような規制が発展を妨げる危険もあることは、トランプ氏としても重々承知だ。しかし議会も中国に対して同様の危機感を持っていることも証明された。
一方、製造業分野とは別に、習政権が世界的規模で進めようとしているのが「一帯一路」と呼ばれる公共事業である。
この事業は「事業をして景気をよくしたい」途上国のほぼ全員が中国の援助を期待していることだ。先日中国が主催したアフリカ会議で習氏は「今後3年間で、アフリカ地域で6兆6,000億円の投資をする」と約束した。途上国は高速道路とか鉄道と言われると、飛びつくのが常だ。中国の事業の問題点は過大な事業を推奨することだ。加えて資金もないから高利のカネを借りて返せなくなり、施設が完成したら借金のカタに獲られるケースが何件も続いている。既にインドネシアでは工事が行き詰まり、マレーシアでは工事を止めた。
(平成30年9月19日付静岡新聞『論壇』より転載)