外客ブームの光と影

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顧問・元ベトナム・ベルギー国駐箚特命全権大使 坂場三男

 相変わらず外客ブームが続いている。先週、日本政府観光局(JNTO)が発表した今年8月までの訪日外客数から推定すると2018年1年間の総数は過去最高の3200万人近くになりそうである。前年比の伸び率は12~13%で、過去数年に比べればやや鈍化しているが、それでも世界トップ10の「観光大国」になりそうな勢いである。
 こうした外客ブームを支えているのが中国、韓国、台湾からの観光客である。今年、これら3国・地域からの外客数の合計は2100万人、全体の3分の2を超えると推定されている。特に、中国人は850万人、韓国人は750万人まで増えると予想されるから、いまや日本全国の都市部で中国語と韓国語が飛び交っているのもムベなるかなである。日本開闢以来の奇景と言ってよい。
 10月に入れば秋の行楽シーズンが始まり、いよいよ街中で中国語と韓国語が氾濫する季節かというと実はそうでもない。中国人の訪日ピークは7~8月であり、台湾人は6~7月に集中する。それぞれのお国の事情や気候条件が彼らにとってベストの訪日時期を選ばせている。4月の桜のシーズンに外客が増えるのは毎年恒例だが、韓国人に限れば4月はむしろ減少期である。彼らのお気に入りの訪日時期は12~2月で、これは朝鮮半島の寒さを避けるためで、桜や紅葉なら自国で十分楽しめるということかも知れない。因みに、今年の1月に訪日した韓国人は単月で過去最高の80万人を超えた。驚くべき数字である。
 それぞれの国・地域の人口との比較で最も訪日者数が多いのは1位が台湾、2位が韓国である。今年の推定人数から単純計算すると、何と台湾人の4.7人に1人、韓国人の6.5人に1人が訪日することになる。勿論、彼らにとって人気No.1の海外旅行先である。
 それにしても、近年の訪日外客数の増加は驚くばかりである。2014年までは出国日本人の数が常に訪日外客の数を上回っていた。20年前(1998年)の数字では、何と前者が後者の3.5倍になっている。それが、今や大逆転し、後者が前者の2倍近くになろうとしている。日本経済すらインバウンド需要に支えられる時代である。訪日客が増えるのは結構なことだが、同時に脆弱性も内包し始めているようで気になる。
 他方、訪日外客数の増加比率ほどではないが、日本に在住する外国人の数も着実に増えている。法務省の発表では、今年6月末の時点で263万人を超えた。日本国民の数と比較すれば、たかだか2.1%に過ぎないが、32万人の留学生と28万人の技能実習生の存在感は高まっている。コンビニや居酒屋で接客に当たる者の多くが外国からの若者であり、彼らのアルバイトなしには回らない業界も増えているようだ。
 同時に、不法残留者の数も増え、深刻な社会問題になりつつある。法務省の統計によれば、今年7月1日時点で69346人に達したようだが、その内訳をみると、技能実習生7814人、留学生4030人が含まれている。これにはベトナム人、中国人が多い。特にベトナム人の場合、技能実習生4136人、留学生2434人が在留期限切れとともに失踪し、不法滞在者になっている。これには日越双方の関係者が頭を痛め、解決策を模索していると聞く。
 外国人による犯罪の増加も「陰」の部分である。警察庁の犯罪統計によれば、今年1-8月に刑法犯・特別法犯として検挙された外国人の数は10440人(うち殺人・強盗などの重要犯罪による者は335人)だという。人口比での犯罪比率としては、犯罪をおかす外国人の全てが日本在住者によるものであれば日本国民に比べて外国人による犯罪が3.7倍ほど高いことになるが、観光等の目的で訪日した者による犯罪も多いであろうから、特に外国人の犯罪比率が日本人一般より高いとは断定出来ない。ただ、はるばる日本まで来て犯罪をおかして欲しくないと思うのは私一人ではないだろう。