「米中新冷戦のはじまり」
―「製造2025」「一帯一路」政策への懸念、世界に広がる―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 米中新冷戦が始まった。米ソ冷戦で米国が勝ったのは、あらゆる製造業の分野でソ連が米国に太刀打ちできなかったからだ。今回、中国はあらゆる製造業の分野で米国を凌駕する寸前までたどりついている。
 習政権が掲げた「製造2025」というのは、2025年までにIT産業の分野で米国に追いつき「2049」の建国100年記念日には世界の一等国に到達するとの目標を掲げた。また「一帯一路」の名の下に、各国に公共事業を輸出しまくった。事前にAIIB(アジアインフラ投資銀行)を設立して、世界中からカネを集め、中国を取り巻くあらゆる国に、公共事業を持ちかけた。やり方は実にえげつないもので、過大な港を作らせて借金漬けにした挙句、借金のカタに所有権をいただくというものだ。麻生太郎財務相は慧眼で、AIIBへの出資を頼まれた時点から「サラ金のようなものには入らない」と断じていた。いま東アジア諸国や欧州主要国の間で、中国の「一帯一路」政策は怪しいと評価が定着している。
 マレーシアで政権に返り咲いたマハティール首相は、すでに着工していた鉄道建設を中断した。マレーシア半島を南北に貫く鉄道は「中国だけにしか役に立たない」という。この事業に絡んで中国の建設労働者が世界中に派遣されている。通常、途上国援助と言えば、地元民を雇用するのも目的の一つだが、中国方式は自国民を世界中にばらまくやり方だ。
 米ソ冷戦時代は東西の中間に境界があるが如く、互いの陣営内にこもっていたが、中国共産党は、世界中の技術をかっさらい、他人のカネで自国民を送り出す。あわよくば中国人労働者が他国に住み着いて政治にも影響を与える狙いもあるだろう。オーストラリアの政界は保守派の首相がいきなり親中派に交代したかと思えば、また保守派にひっくり返されている。どうやら中国資金をめぐる葛藤があったようだ。中国に最も甘いと言われたドイツが「一帯一路は国ごと中国共産党のものにする新方式ではないか」と疑うに至った。ドイツは最近、中国企業が独企業を買収しようとしたのにストップをかけた。
 習近平氏の米政界における評判は極めて悪い。致命的な発言はオバマ大統領の末期に「南シナ海の岩礁に軍事基地は造らない」とウソをついたことだろう。
 こういう中で、安倍首相は25日に訪中し、26日、習近平主席と李克強首相と会談する。自民党の中の親中派は発言力を無くしている。習主席がこの時点で訪日を決心したのは、世界中で落ちた評判を、人気者の安倍氏に会って埋め合わせようとの思惑でもあるのか。インドネシアは重なる災害地の再建策について「日本と相談したい」と申し出ている。安倍氏が構築した「開かれたインド太平洋戦略」は、日米豪印の4ヵ国に加えて、英、仏も積極参加の意思を示している。日中関係を良好に保つには、時に力を示すことも必要だ。
(平成30年10月17日付静岡新聞『論壇』より転載)