来年2月は中越戦争が勃発して40周年になる。実際の戦闘は3月初めには終結し、わずか3週間の「短い戦争」であったが、双方の軍を合わせて6~7万人の死者が出る「本格的な戦争」でもあった。今、ベトナム共産党・政府がこの40周年をどのように記念するかに関係者の注目が集まっている。
この戦争では、中国軍は戦車部隊を中心に総勢60万人を動員し、うち10~15万人が越境攻撃したと伝えられる。中国軍機による空からの攻撃も行われた。結果として、ベトナム最北部のいくつかの省が中国軍によって占領され、一時は、ハノイ近郊まで中国軍が迫っている。
このため、国際的には「ベトナムの敗北」と評価されているようだが、ベトナム側はそう思っていない。ベトナム軍の公式記録では、中国軍の戦死者は2万人、負傷者は4万人にのぼるとされており、むしろ「中国の侵略軍を撃退した」と認識している。事実、中国によるベトナム攻撃の理由とされた「ベトナムのカンボジア侵攻に対する懲罰」という目的は、その後10年間近くにわたってベトナム軍のカンボジア駐留が続くことで、未達に終わっている。
ベトナムと中国の間には大規模なものだけで歴史上14回の戦争が繰り返されており、その都度、ベトナム側が中国からの侵略軍を撃退している。ベトナム最大の英雄であるチャン・フン・ダオは13世紀に3度にわたってベトナムに侵攻した元軍を撃退した将軍である。また、15世紀前半に明軍を撃退したレ・ロイや18世紀の後半に清軍を撃退したグエン・フエも英雄として祀られ、今なお戦勝記念日の式典すら行われている。
こうした歴史に照らす時、ベトナム側が来年2月にどのような記念行事を行うのか、行わないのかは、中越関係の現状を見る上でも興味がある。現在のベトナム共産党書記長であるグエン・フー・チョン氏は、今月、国家主席も兼務することが決まり、絶対権力を掌握しているが、その外交姿勢はやや中国寄りと見られている。彼としては、40年前の中越戦争をめぐって今更中国を刺激したくないと考えるかも知れない。
このことに関連して、今年、興味深い出来事があった。それは1988年3月に南シナ海・南沙諸島のガックマー岩礁(英名ジョンソン・サウス礁)の領有をめぐって中越両国の海軍が武力衝突し、ベトナム海軍兵士64名が死亡した過去(30周年)の扱いである。ベトナム政府は公式な行事は行わなかったようだが、軍人団体や遺族関係者らによる追悼行事が何度か行われ、広く報道された。11月には、民間人の手で、隣接するファンビン島に「ガックマー烈士」の記念碑が建てられるという。
ガックマー岩礁をめぐる中越両国海軍の戦闘の様子(非武装のベトナム海兵が一方的に射殺されるシーンやベトナム輸送船が撃沈させられるシーンなどがあり、中国海軍撮影の映像が流出したもの)もネットで流され、多くのベトナム人の憤激を呼び起こしている。ベトナム人の反中感情は根深い。近年、中国からの投資や観光客の数は著増傾向にあるが、一般のベトナム人がこれを歓迎しているようには見えない。果たして、来年2月の中越戦争40周年をめぐって何が起こるのか、起こらないのか。ベトナム側官民の動き・対応を注視したい。