「安倍訪中に随行した経済界の対中商取引」
―安全保障に対する経済界の“対中認識”との乖離―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 安倍晋三首相の中国公式訪問に際し、日中両国企業は合わせて500点、約3000億円規模の商取引を成立させた。李克強首相は同行してきた企業関係者は1000人だったと誇らしげだった。中西宏明経団連会長ら財界総出の訪中団だったが、米中大ゲンカの最中に、儲け話ばかりあさるのは浅ましすぎるのではないか。さすがに安倍首相は照れ臭かったのか帰国して、インドのモディ首相を大歓迎して「味方はこっちだ」と言わんばかりだった。
 日本財界の中国訪問は「儲ければ良い」という単細胞的発想にすぎるのではないか。小泉純一郎首相の時代、北城格太郎IBM社長が首相を訪れて、「商売に差し障りがあるから、靖国神社参拝をやめてくれないか」とわざわざ申し入れた。小泉氏は「靖国とIBMのどっちが重要だと思っているんだ」と怒鳴ったという。
 その後中国に入ったIBMは虎の子の電信部門を買い取られて、ただの会社になり下がった。いま中国が隆盛なのは電信部門を買い集め、巨大化させ、さらに半導体分野をかき集めているからだ。トランプ大統領は米国で半導体買い占めの母体になっている晋華集成電路(JHICC)社が他国に半導体製造装置を輸出することを禁じた。
 中国政府が掲げる「中国製造2025」は半導体の国産化を揚げており、JHICCは重点支援対象の一つだという。中興通訊(ZTE)にも同様の制裁を科したため、同社は米国企業から製品を調達できなくなった。
 国の支援でかき集めた技術、それが製造業のトップに成り上がると全製造業が優位になる。そういうことは許さないというトランプ氏の考え方こそ国家戦略というものだろう。
 自民党には過去に親中派と言われる人達がかなり居た。河野洋平、加藤紘一、宮沢喜一といった人達は宏池会の中心人物で、親中派で鳴らした人達だ。河野洋平氏は“河野談話”の作成者で「慰安婦の存在を認めて謝って済まそう」という考え方だった。安倍氏は「ファクトの確証がないのに謝罪すればファクトが存在したことになる」と反対した。朝日新聞が謝罪、取り消したことで安倍氏の正しさが証明された。
 中国の覇権の意志は変わらないだろう。トランプ氏は取り敢えず中国の製造業の伸長にストップをかけた。中国が「正当な貿易行為に改める」といっても、にわかに信ずるわけにはいかない。
 トヨタ自動車は新研究開発部門を中国に立地するという。世界で最高度と思われる研究所を中国に立地する感覚は理解できない。もっとも技術が盗まれやすい地域だという認識はないのか。北城氏のIBMも最重要部分だけ買い占められた。
 「開かれたインド太平洋戦略」の価値観は、日米豪印の4ヵ国と、英、仏の共有物となったが、“対中認識”では6ヵ国が一致しているのである。
(平成30年11月7日付静岡新聞『論壇』より転載)