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TPP特別委員会大モメ
―外交交渉のイロハを知らない民進党―
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会長・政治評論家
屋山太郎
環太平洋経済連携協定(TPP)を審議する衆院の特別委員会が大モメに揉めている。民進党が審議資料としてTPP交渉の経過を記した議事録を出せと要求したのに対して政府は断った。民進党も妥協して「都合の悪い箇所は黒塗りで良い」と強く言うため政府が議事録を提出したが、中身は殆ど全部が黒塗り。民進党は「これでは審議ができない」と審議拒否を交えて抵抗。視聴者には政府の“秘密主義”は行き過ぎではないかとの印象を与える。
これに対して安倍首相は「協定について交渉過程を公表している国はない。出来上がった協定内容についてどう政策を立てるかが、議題となる」と答弁している。
この特別委員会の委員長は西川公也氏で同氏は農水相の経験もあれば、自民党農水部会長の経験もある。この時の見聞を踏まえて『TPPの真実』を書き、ゲラの一部が野党に渡ってしまった。TPP交渉の内容は4年間は「厳秘」という約束があるのに、西川氏は非常識過ぎる。真実かどうか確かめようがない交渉のやり取りが外部に洩れたらどうするのか。今回の交渉が特に難しかったのは交渉の項目が農産物、工業製品、知的財産権とあらゆる品目分野を包含していたからだ。
各分野に跨っていると、総合指揮を執るトップが「工業で譲って農業で取れ」とか「この分野の工業部品を守るために自動車の完成品を譲れ」といった“総合判断”ができる。私もジュネーブで「ウルグアイ・ラウンド」という主として食料品目の関税交渉を担当したことがあるが、品目について「譲っていい」とか「死守しろ」と本省からの指示が来るのに数日かかる。品目の権限は各課長が握っており、課長が「ウン」と言ってから局議にかけられ、省議で了承を取る。そのあと各省の事務次官会議の了承がなければ返事が来ない。交渉を遅らせているのはタテ割り行政の結果だ。その決定の遅さは世界のもの笑いのタネになっていた。「日本国の弔電は3日経ってから届く」とからかわれたものである。
アメリカには議会が専任するアメリカ合衆国通商代表部(USTR)代表がいるから、トップが全部裁ける権限がある。今回、日本がTPPを纏められたのは、首相に全権を委任された甘利TPP担当相を置いたためだ。「何を得たか、何を諦めたか」はトップがバランス感覚を働かして決める。その過程が表に出れば、業界ごとに全員が反対し、議員を突き上げるだろう。業界は他の業界のことなど配慮しないからだ。
日本の農業は既に活性化し始めている。品種改良や輸出施設、流通などにカネを使えば農業は第一次産業として立派に発展するだろう。農業団体は「コメを死守しろ」と言っているが、コメ対策にはカネは要らない。廃田すると罰金、その代り田畑の売買の自由を許可するだけで活性化する。輸出も活発になるだろう。
TPP特別委員会は出てきた協定を前提に、農業発展の道筋について与野党で検討するのが仕事だ。
(平成28年4月13
日付静岡新聞『論壇』より転載
)