「『天下り』に甘い安倍内閣」
―再就職等監視委員会:5府省庁計6件認定―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 日産ゴーン前会長が、社長として約10億円の給与を貰っていたとは聞いていたが、裏であと10億円を貰う手筈だったというのには驚いた。ゴーン氏の感覚では国際的相場では20億円でもおかしくないと思っていたのだろう。ならば最初から20億円を請求すればいいのに、社員の気持ちを推し量ると10億円が限度。しかしあと10億円が欲しいから、こちらは裏で貰うということだったのか。
 社長の給与は長い間、“秘密事項”とされていたが、リーマンショックの頃から、社会に滲み出てきた。トヨタの奥田碩社長と食事をしたことがある。その際、トヨタの社員の平均給与を尋ねたところ、年収500万円だという。ついでに「社長は?」と聞いてみたら7,000万円だという。社員の14倍というのは低すぎると思って「随分少ないのですね」と言ったところ、奥田氏は「倍貰っても倍は食べないからねェ」と笑っていた。サラリーマン社長の相場でもこのあと億を超えることになったが、総じて日本の社長の給与は低い。日本ではソフトバンクを除くとトップはソニーの平井和夫氏の9.1億円。ソフトバンクのニケショ・アローラ副社長は103億円と飛び抜けているが、これは全く例外。周知の社長を拾うとヤマダ電機の山田昇氏が29位で3.95億円だ。
 世間が社長や役員の給与を知りたがり始めたのは、役人が天下り法人に天下って法外な給与を貰っているのが暴かれてからだ。
 産業革新投資機構(JIC)という国内最大の官民ファンドが出来た。社長は三菱UFJから引っ張って来たらしいが、役員給与を一人当たり5,500万円払うという。それを聞いて経産省が「高すぎる」と非難する騒ぎになった。純粋に民間資金で民間が勝手に投資をするなら、役員の給与がいくらだろうと問題ない。しかしこの法人は国の信用をバックに投資をする。加えて常務に財務省と経産省から一人ずつ天下っている。
 通常天下りの給与は事務次官と同程度である。現在なら次官給与は年俸2,300万円だから法人の総裁になってもこの程度。それが常務に天下った役人に5,500万円も支払えば「天下り常識」違反もいいところだ。さすがに世耕弘成経産相も“間違い”と反省して、自らに減給を課した。ところが役人は社長追放に動き出し、民間人は総辞職。天下りも引っ込めるべきだ。
 天下り人事には決まった規則があるはずだが、最近は各省庁にわたって、規則無視の風潮がある。1年前、私学に助成金を払っていた高等教育局長が早稲田大学に教授として天下った。金づるを握って、金づる大学に天下るとは、あまりにも安易ではないか。早稲田大学の名誉にもかかわるひどいやり口だ。
 内閣の再就職等監視委員会が調査したところ、内閣府など5府省庁で計6件を認定した。安倍内閣は総じて天下りに優しすぎる。
 (平成30年12月12日付静岡新聞『論壇』より転載)